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ふぁんとむ†わーく(完成稿分割版)その1

    2012-03-01(Thu)

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 俺、涼城光樹(すずしろみつき)は特にすることもなく学校を挟んで自宅からは反対側となる繁華街を歩いていた。
 とりとめのない思考に耽りながら歩いていたせいだろうか。横道から出てきた人影を避けきれず、その上バランスを崩して見事に尻餅をついてしまった。
「いてて……」
 尾てい骨を打ち付けるほどではなかったが、確かに痛かった。


「大丈夫かい?」
 すっと手を差しのばされた。俺はその手を辿って、その人物の姿を見る。華奢な体躯だが、俺みたいにバランスを崩すヘマはしなかったらしい。俺は親切をむげにするのも気が引けて、おとなしくその手を握って立ち上がった。
 改めて相手の顔を見た。ホスト然とした優男だった。浮かべた微笑が目に眩しい。
「ケガは? よそ見しててぶつかってしまって。ゴメンね」
「え? あ、いや……俺もよそ見してたから。こっちこそゴメン」
 あんまり関わり合いになりたくなかったが、謝らないのも後味が悪そうなので、さっさと謝ってしまう。


「お互いよそ見、か。なにか考え事でも?」
 スルーしてくれた方がよほどありがたかったのだが、人なつっこい性格なのか、話題をつなげてきた。俺は少し、というかかなり帰りたかったのだが、無視するわけにもいかず、
「いや、たいしたことじゃない。あまりにもやることがなかったから、何をしようかと思ってただけで」
「ああ、そういうこと。僕もときどきそういうことあるな」
 わかるわかる、と頷いていたが、若干嫌みに聞こえるのは容姿のせいだろうか。特徴のない容姿の俺に比べ、人なつっこい笑みを浮かべたこいつは女性が放っておきそうにない。


「そろそろいいですか?」
 あまり失礼にならないようにしたつもりだったが、少々言い方が刺々しくなった。相手は少し目を丸くした後、困ったように頭をかき、
「ゴメン。ちょっと距離を測りかねて。ちょっとずうずうしかったね。うん、じゃあさよなら」
「ああ、さよなら」
 台詞の前半にちょっと引っかかりを覚えたが、俺が首を突っ込むことでもない。そいつの横をすり抜けて歩き出そうとしたら、いきなり腕を掴まれた。なにごと、と思って手の持ち主を見ると、やはり優男。
「ねえ、これをもらってくれないかな」
 そう言い、有無を言わさず手の中に何かを押し込んだ。


「いきなりなんなんですか?」
 腕をふりほどき、手の中を見ると、小さなピルケースを握らされていた。振ってみると軽い音がするから、中身が入っているのだろう。どう見ても怪しい。
「僕にはもう必要がないから、君が持っていてほしいんだ。なんだか、君は僕と似てる気がする」
「…………」
 思いっきり不審な目を向けてやると、彼は落ち着きなく辺りを見回し、それから、脱兎のごとく逃げ出した。
「それはきっと君の願いを叶えてくれる。僕の願いも叶った」
 走り去る途中、わざわざ立ち止まって叫ぶ。そして、踵を返して今度こそ走り去っていった。
 ぽつんと残された俺は手の中の物を持てあまして手のひらで転がす。かといって、捨てるのもなんだかもったいない気もしたので、鞄へ無造作に突っ込んで、帰路についた。

       ●

 それから数日、俺はそんなものをもらったことすら忘れて日常を過ごしていた。繰り返しにも似た日常の中で、俺はちょっとしたミスをやらかした。
 母の趣味は、陶芸品を蒐集することだ。気に入った物があれば、金に糸目をつけずに購入し、しばらくは家の中に飾られる。
 普段であれば、俺はそんなものに近寄りすらしなかったのに、いつもなら避けて通る壺のそばを通ろうとして、そして、肩にかけた鞄が引っかかった。


 気がついたときには壺は粉々に砕け、元の姿など想像するべくもない姿へと変わり果てた。
 その音に気がついた母が廊下に出てきて、その惨状を目にし、まず取った行動は、俺の頬を叩くことだった。
「ってぇ。いきなりなにすんだよ?」
「あんたこそなにやってんのよ? それ高かったのよ!」
 半ばヒステリックに叫び、慌てて欠片を拾い集め始めた。
「俺よりそんな壺の方が大事ってか? 俺だってケガしたかもしんねぇのに」
 母の態度に腹が立った俺はそんな言葉を投げつけていた。母は俺の粗暴な物言いに反応し、
「そうね。そんなこと言うなら、壺の方がよほどいいわ」


 冷静に考えれば、俺が全面的に悪かったのだが、そのときは頭に血が上っていたのと、母の趣味にあまりいい思いをしていなかった俺は、母を押しのけて上階にある自室へと駆け込み、扉を乱暴に閉めた。
 しばらく興奮から息が荒かったが、やがてそれも落ち着く。熱しやすく冷めやすい。普段なら、ケンカしたときは数日口をきかないが、そのうち何事もなかったように元に戻る。


 しかし今日に限って、数日前に渡されたピルケースを思い出してしまった。願いを叶えてくれると言って渡されたピルケース。俺は鞄の底に沈んでいたそれを引っ張り出す。
 好奇心が首をもたげた。これを使って今願いを叶えたらどうなるのだろう。特に叶えたい願いなどなかったが、母を困らせることを願ったらどうなるだろうか。
 中にあったのは天使の羽でもかたどったのだろうか、とてもファンシーな形をした白い錠剤が一つだけ入っていた。


 俺はそれを指でつまみ上げ、方々から眺め回した。お菓子だと言えば、そう信じてしまいそうな形。特に怪しい臭いもしない。好奇心と先ほどの怒りの余韻で微妙に投げやりになっていた俺は、それを口に放り込み、一息に飲み込んだ。
 瞬間、がくんと景色が揺れた。いや、揺れてるのは自分か。全身から力が抜け、床に倒れ込む。意識を失う前に見えたのは、いつも寝起きに見える見飽きた自室の天井だった。

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