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鮮華伝part6

    2012-02-24(Fri)

こんばんは。

連載の方は久しぶりの更新になる気がします。

長編小説、鮮華伝のpart6です。そろそろサブタイ付けた方がいい気がしてきた今日この頃です。
だって、番号じゃないようわからないもんね!
でも、今回はひとまず保留にします。あしからずご了承ください。

目立ったアクションシーンもない今回ですが、少し錬清メインで進んでいきます。

これから先、白扇を中心とした鮮華はどうなっていくでしょうか。
まだまだ序章です。末永くお付き合いください。





 李川にたどり着いたのは翌日の夕刻だった。幸い、食あたりにもならず、夜盗の類と遭遇することもなく、道行は安泰なものだった。
 ただ、不平を挙げさせてもらうと、錬清の他を顧みぬ傍若無人な振る舞いに鮮華が振り回されたことだろう。
 具体的に言うと、錬清は休息を取るために馬を止めるたびに誰かしらに切りかかろうとするのだ。油断も隙もあったものではなく、鮮華の者は休息を怖がる羽目になった。


 李川では何事もなかったようで、留守を任せていた理督たちは邑の守備軍と共同して警護に当たっていた。白扇が戻ったと知るや、すぐさま総員が集合し、邑の入り口は大混雑することとなった。
「白扇殿、よくぞご無事で。して、紅紗の連中は?」
 理督が進み出て、白扇の荷物を受け取りながら問う。白扇は視線で背後を示し、駕刻が縄で引いていた男たちを目にした理督は目を丸くし、ついで笑い出した。
「これはこれは……」
 すぐさま彼は刑務官を呼ぶように部下に命じ、走り出した部下を目で追う。


 ついで彼は見慣れぬ男、錬清に不思議そうな顔を向ける。
「応唯、錬清殿ですか。何故ここに?」
「? 知っているのか、この男を」
 白扇が驚いて問うと、理督はあいまいに頷き、
「彼はとある邑主のお抱えでして。言葉を交わしたことはないですが、一度政官の折に見かけたことが」
「そう、か……」
 改めて錬清に目を向ける。ということは、彼を遣わしたのはその邑主か。


「錬清、お前の主はどこの邑の邑主だ?」
「あ? 俺に主なんていねえよ。仕えるがらじゃないのはわかるだろ?」
 それはそうかもしれないが、だが、邑主のお抱えというなら、仕える以外になにがあるというのだろう。
「強いて言えば、力を貸してやってる、そういうこったな。単なる居候だよ、居候。あいつだって俺を雇ってるとは微塵も思ってないだろうしな」
 カカと笑い、理督の顔を見る。
「俺もあんたのこと覚えてるぜ。一人、眼の感じが違ったからよく覚えてる。お前の眼は理想を見てる。そうだろ?」
「理想、ですか……私にそんな大したものはありませんよ」
 穏やかに返す理督に錬清は皮肉げな笑みを浮かべて言う。
「そういうことにしといてやるよ」


 そうこうしているうちに刑務官が十名ほどこちらに向かってやってきた。手には鉄鎖と錠前。彼らは縄で縛られた紅紗の連中を立たせ、その足と手を他の者とつないで一列にしていく。
「紅紗の確保、協力感謝します。これで少しは清香も安泰になるでしょう」
 一礼をしてから紅紗を引っ立てて行く。それを見送ってから、錬清に目を向け、
「して、これからお前はどうするのだ?」
「まずはここの周辺の情勢を調べるさ。そのあと、俺は一度馬鹿のところに戻る」
「それは一人でか?」
「何を言っている。何のために俺が李州くんだりまで来たと思っているんだ? 当然お前たちも一緒にだ。ついでだから、調べごとにも付き合ってもらう」
 相変わらず傍若無人だが、もはや白扇も慣れてきた。駕刻も諦めたのか、先ほどから口を開いていない。まあ、彼はもとより寡黙な質だが。


「では、宿屋を探さなくてはな。ここについてすぐに紅紗目撃の報が入ったためにまだ決まっていないのだ」
「あ、それでしたらすでに二人分は用意できておりますよ。ただ、錬清殿がいるとは思わなかったもので……」
「気にすんなよ、理督のおっさん。俺は適当に探すからよ」
 馴れ馴れしく肩を叩く彼に苦笑を見せながら、理督も嫌がってはいない。
「どこに泊まるかだけ、教えてくれ。夜に会いに行く」
 理督が場所を教え、白扇たちと錬清は一度そこで別れた。


 宿屋に向かう際中、理督に彼の詳細を尋ねると、
「見た目通りの風来坊ですよ。もっとも、腕はかなり立つそうですが。彼が仕えて、いや、居候しているのは、祁州の央である祁央の邑主ですよ」
「祁と言えば、最近はかなり安泰だそうだな。それはその邑主あってのことか」
「ええ、恐らく。実を言うと、錬清殿の他にももう一人いらっしゃるのですが、表に顔を見せないせいで噂だけしか聞いたことがありませぬ」
「もう一人、か……」
 その人物も錬清みたいな傍若無人なのだろうか。多分、今後縁ができるだろうから、そうだとしたら少々憂鬱ではある。
「今後についての詳しいことは宿屋に入ってから話しましょうか。祁や錬清殿との間で話し合うことは色々あるでしょうしな」
「そうだな……」
 白扇は薄雲のたなびく空を見上げ、今後に想いを馳せた。

       ‡

 一方、一度白扇と別れた錬清は宿屋を探すでもなく中央通りをはじめとする各所を練り歩いていた。
 その顔は白扇たちに向けていたものとは違い、真剣で、そして、慈愛に満ちていた。
 彼は一軒の食事処を見つけ、ふと足を止めた。特段、目を引く佇まいではないが、食欲をそそる香りが辺りに広がっていた。ここならよさそうだ。


「店主、ここはなにを出す店だ?」
 軽い足取りで近付き、仕込途中の店主らしき体格の良い男に問うと、彼は眼を弓にし、
「羊肉の羹(あつもの)でさぁ。兄さんは旅の人かい?」
「ただの風来坊だよ。羊か。あいにく、食したことがない」
「羊はちょいと癖がありやすが、香草と煮込めばそれもそんなに気にならねぇってことで、羹にしてるんでさ」
 なるほど。錬清は羊肉はおろか、肉の類をほとんど食べた経験がない。魚もしかりで、もっぱら菜食だった。


「すぐにもらえるか?」
「あとちょっと待ってくれれば、アツアツのを出しますぜ」
「わかった。待とう」
 勧められた席に腰を落ち着け、その際に邪魔になったので腰の双剣を台の上に置く。すると、角度的に先ほどまで見えていなかったのだろう、店主が興味深そうにその双剣を見る。
「二本あるけど、一本は予備かい?」
「いや、予備ではない。使う用途が少し違うからな」


「へぇ……剣士ってのはよくわからん。最近はどんな仕事が多いんだ?」
「まあ、平和な場所には縁のない存在だからな……今は盗賊の検挙に駆り出されることの方が多いんじゃないかね」
「ああ、そうか。最近じゃ紅紗って連中が幅を利かせてるそうじゃないか。物騒なもんだよ」
 当然ながら邑の人々は紅紗が滅んだことを知らない。
「店主、一ついい話をしてやる」
 そう切り出すと、話好きらしい店主は身を乗り出してきた。その間も調理の手は動いていた。器用なものだ。まあ、こういう店の人間は作業をしながら客と世間話をすることが多いのだろう。
「鮮華という義勇団が、紅紗の頭領を打ち取ったという話だ。いい話だろ?」


「それは本当か? 鮮華っていや、昨日この李川にやってきた奴らだよな……ずいぶんとあっさりやったもんだな」
「そりゃ、南の祁州のお抱えって噂だからな」
「祁州の! そらすげぇよ。義勇軍たって、結局は官軍の下働きみたいなもんで、契約はするけど、召し抱えられるなんてそうそうあることじゃないだろ?」
「それだけ腕が立つってことだろ?」
「だろうなぁ……オレはずっと休みなくこの店で働いてるから見たことねぇけど、鮮華の盟主って顔のいい若い男なんだってな。店に来た客が噂してたぜ」
「ほう……頭の切れを考えると、もう少し年が行っているような印象もあるが、そうなのか」
 錬清はわざととぼけてみせる。


「ああ。なんでも、女のように綺麗だとか」
「だとすると、武芸に秀でてる、というわけではなさそうだな。軍師的な立ち位置かもしれんな。そして、そいつを支持する腕の立つ武人ども。ははっ、こいつは国が動くかもしれん」
「国が動くかどうかはオレみたいなしがない店主にはわからんが、その調子で賊どもを捕まえてくれりゃ、平和にはなりそうだな」
 期待のこもった店主の言葉に錬清は深く頷く。そうしてもらわねば困る。


「ほいよ。自慢の一品だ。量はおまけしといたから、たんと食えよ。あんただって剣士なら、人ごとじゃねぇだろ? 力つけといてもらわなよ」
「ありがたい」
 椀は長年使っているせいか汚れているが、不潔なほどではない。中身を見るととろみの付いた汁の中に肉と野菜がごろごろ入っていた。匂いも食欲をそそるし、今が飯時じゃないだけで、普段は繁盛しているのだろう。
 一口汁を飲むと、肉のうまみが染み出した濃厚な味わいが口を満たす。とろみが熱を逃がさないせいか、ひどく熱いが、それ以上に、
「旨いな。これだけで三食いけそうだ」
「そりゃうれしいね。作ったかいがあるよ」
 正直な感想に店主が相好を崩す。


 錬清は当初の目的は少々忘れ、椀の中身を食す。羊肉のくさみ、というのは錬清にはよくわからないが、確かに香草が効いていて気になるようなものはない。
 あっという間に椀の中身を空にした錬清は満足の息をつき、
「お代は?」
 と問うと店主は首を振り、
「いや、今回はいいさ。ただ、次来た時には払ってくれるとうれしいね」
 彼は真剣な顔になり、
「だから、絶対に死なないでもっかい来てくれよ」
 錬清は思わず呆然としてしまい、それから笑い出す。
「安心しろよ。俺は殺しても死なない男だ。次がいつになるかはわからないが、おっさんこそ繁盛しすぎで目を回すなよ」
「目を回すような忙しさなら大歓迎だよ。それじゃ、元気でな」
 差し出された大きな手を握り返し、錬清はその店を後にした。


 食事をしたかったのは確かだが、あの店には別の用があった。あの店である必然性はないが、あそこなら錬清の目的も果たせそうだったからだ。
 目的とはつまり、情報操作。食事処には旅人も含め、多くの客が立ち寄る。うまい店ならなおさらだ。そんな店に鮮華の評判を流しておけば、世間話とともに鮮華の評判は語られ、後々尾ひれまでついて他の邑や州に知れ渡るだろう。
 現状でも十分有名な義勇団ではあるが、名はあっても実はなかった。そこへ、やってきて早々に紅紗を捕まえたという実がつけば、民草の注目も集まるだろう、ということだ。


 祁州のお抱えの件は現状では全く根のない話だが、いずれ錬清がそう仕向ける。その前にちょっと噂話を流しただけの話だ。
 種を蒔き終えた錬清は存外に美味な食事と出会えたことに満足しながら、ゆったりとした足取りで白扇の泊まる宿屋へと向かった。
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