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ふぁんとむ†わーく(完成稿)

    2012-02-21(Tue)

こんばんは。

『第2回(目に突入した)短編小説書いてみよう会』の原稿が完成しました。

正直、お題である「幽霊」に沿っているかはわかりません。

そして、初の短編です。
お見苦しいかもしれませんが、お付き合いの程よろしくお願いします。
なお、感想は企画参加者以外からも受け付けています。
忌憚ない意見、お願いします。


・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

 俺、涼城光樹(すずしろみつき)は特にすることもなく学校を挟んで自宅からは反対側となる繁華街を歩いていた。
 とりとめのない思考に耽りながら歩いていたせいだろうか。横道から出てきた人影を避けきれず、その上バランスを崩して見事に尻餅をついてしまった。
「いてて……」
 尾てい骨を打ち付けるほどではなかったが、確かに痛かった。
「大丈夫かい?」
 すっと手を差しのばされた。俺はその手を辿って、その人物の姿を見る。華奢な体躯だが、俺みたいにバランスを崩すヘマはしなかったらしい。俺は親切をむげにするのも気が引けて、おとなしくその手を握って立ち上がった。
 改めて相手の顔を見た。ホスト然とした優男だった。浮かべた微笑が目に眩しい。
「ケガは? よそ見しててぶつかってしまって。ゴメンね」
「え? あ、いや……俺もよそ見してたから。こっちこそゴメン」
 あんまり関わり合いになりたくなかったが、謝らないのも後味が悪そうなので、さっさと謝ってしまう。
「お互いよそ見、か。なにか考え事でも?」
 スルーしてくれた方がよほどありがたかったのだが、人なつっこい性格なのか、話題をつなげてきた。俺は少し、というかかなり帰りたかったのだが、無視するわけにもいかず、
「いや、たいしたことじゃない。あまりにもやることがなかったから、何をしようかと思ってただけで」
「ああ、そういうこと。僕もときどきそういうことあるな」
 わかるわかる、と頷いていたが、若干嫌みに聞こえるのは容姿のせいだろうか。特徴のない容姿の俺に比べ、人なつっこい笑みを浮かべたこいつは女性が放っておきそうにない。
「そろそろいいですか?」
 あまり失礼にならないようにしたつもりだったが、少々言い方が刺々しくなった。相手は少し目を丸くした後、困ったように頭をかき、
「ゴメン。ちょっと距離を測りかねて。ちょっとずうずうしかったね。うん、じゃあさよなら」
「ああ、さよなら」
 台詞の前半にちょっと引っかかりを覚えたが、俺が首を突っ込むことでもない。そいつの横をすり抜けて歩き出そうとしたら、いきなり腕を掴まれた。なにごと、と思って手の持ち主を見ると、やはり優男。
「ねえ、これをもらってくれないかな」
 そう言い、有無を言わさず手の中に何かを押し込んだ。
「いきなりなんなんですか?」
 腕をふりほどき、手の中を見ると、小さなピルケースを握らされていた。振ってみると軽い音がするから、中身が入っているのだろう。どう見ても怪しい。
「僕にはもう必要がないから、君が持っていてほしいんだ。なんだか、君は僕と似てる気がする」
「…………」
 思いっきり不審な目を向けてやると、彼は落ち着きなく辺りを見回し、それから、脱兎のごとく逃げ出した。
「それはきっと君の願いを叶えてくれる。僕の願いも叶った」
 走り去る途中、わざわざ立ち止まって叫ぶ。そして、踵を返して今度こそ走り去っていった。
 ぽつんと残された俺は手の中の物を持てあまして手のひらで転がす。かといって、捨てるのもなんだかもったいない気もしたので、鞄へ無造作に突っ込んで、帰路についた。

       ●

 それから数日、俺はそんなものをもらったことすら忘れて日常を過ごしていた。繰り返しにも似た日常の中で、俺はちょっとしたミスをやらかした。
 母の趣味は、陶芸品を蒐集することだ。気に入った物があれば、金に糸目をつけずに購入し、しばらくは家の中に飾られる。
 普段であれば、俺はそんなものに近寄りすらしなかったのに、いつもなら避けて通る壺のそばを通ろうとして、そして、肩にかけた鞄が引っかかった。
 気がついたときには壺は粉々に砕け、元の姿など想像するべくもない姿へと変わり果てた。
 その音に気がついた母が廊下に出てきて、その惨状を目にし、まず取った行動は、俺の頬を叩くことだった。
「ってぇ。いきなりなにすんだよ?」
「あんたこそなにやってんのよ? それ高かったのよ!」
 半ばヒステリックに叫び、慌てて欠片を拾い集め始めた。
「俺よりそんな壺の方が大事ってか? 俺だってケガしたかもしんねぇのに」
 母の態度に腹が立った俺はそんな言葉を投げつけていた。母は俺の粗暴な物言いに反応し、
「そうね。そんなこと言うなら、壺の方がよほどいいわ」
 冷静に考えれば、俺が全面的に悪かったのだが、そのときは頭に血が上っていたのと、母の趣味にあまりいい思いをしていなかった俺は、母を押しのけて上階にある自室へと駆け込み、扉を乱暴に閉めた。
 しばらく興奮から息が荒かったが、やがてそれも落ち着く。熱しやすく冷めやすい。普段なら、ケンカしたときは数日口をきかないが、そのうち何事もなかったように元に戻る。
 しかし今日に限って、数日前に渡されたピルケースを思い出してしまった。願いを叶えてくれると言って渡されたピルケース。俺は鞄の底に沈んでいたそれを引っ張り出す。
 好奇心が首をもたげた。これを使って今願いを叶えたらどうなるのだろう。特に叶えたい願いなどなかったが、母を困らせることを願ったらどうなるだろうか。
 中にあったのは天使の羽でもかたどったのだろうか、とてもファンシーな形をした白い錠剤が一つだけ入っていた。
 俺はそれを指でつまみ上げ、方々から眺め回した。お菓子だと言えば、そう信じてしまいそうな形。特に怪しい臭いもしない。好奇心と先ほどの怒りの余韻で微妙に投げやりになっていた俺は、それを口に放り込み、一息に飲み込んだ。
 瞬間、がくんと景色が揺れた。いや、揺れてるのは自分か。全身から力が抜け、床に倒れ込む。意識を失う前に見えたのは、いつも寝起きに見える見飽きた自室の天井だった。

       ●

 痛い。
 眠りから覚めてまず思ったのはそのことだった。頭の裏に当たる感触は固いし、背中の裏にも半ばせんべいのようになってるとは言え、十分に柔らかい布団の感触はない。
 寝ぼけ眼で起き上がり、体の節々が痛んでるのを感じる。
 だが、何時までも眠り続けていれば、学校に遅刻してしまう。
 眠い目を擦りながら、扉を開けて廊下に出、そして、洗面所へと向かう。頭がすっきりしない時は顔を洗うに限る。
 あくびを連発しながら洗面所に辿り着き、そして、目を閉じてても使えるそこで顔を洗う。次いで、寝起きの口中は不衛生だということで、コップを手に取り、うがいをしようとすると、人の気配がした。振り向くと、母がいて、一抹の気まずさを感じ、さっさとうがいを済ませてしまおうと考えたが、何やら母の様子がおかしい。
「?」
 視線は俺の顔を見ておらず、コップに注がれている。別にコップにおかしな点などない。いつも通りの、俺が使ううがい用のコップである。その後ろに何かあるのかも、と思って、後ろを向いた俺は、その景色を疑った。

 コップが宙に浮いていた。

「へ?」
 間の抜けた声が漏れ、よく見直すが、鏡にはコップだけが映り、俺の手が見えない。そのことを認識した途端、コップが手をすり抜けた。
 コップから手が滑った訳じゃない。指があるはずのそこを、コップがなにもないかのように落ちて行ったのだ。
 コップが落ちる様子がひどくゆっくり見えた。コップが床に叩きつけられ、破片を散らしながら、甲高い音を立てるのを聞いて我に返ったのか、母は、
「きゃあぁぁあぁぁぁっ!」
 悲鳴を上げて頭を抱え込んだ。
 俺は訳がわからなくなって、母を押しのけて出てこうとして、その手は母の体を突き抜けた。
 母の声を聞きつけてやって来た父に廊下でぶつかりそうになったが、それすらも何の抵抗もなくすり抜けてしまう。
 何がどうなっているのか、全く分からなくなって、俺は焦りに支配されるままに靴も履かぬまま外へと飛び出して行った。
 しばらく何も考えずに走り、ようやく我に返ったのは学校の前。朝食を食べず、また、がむしゃらに走ったせいか、いつもよりはるかに早い時間だ。見回てもほとんど生徒はいない。
 幸いというべきか、昨夜は制服のまま眠り込んでしまったため、かろうじて制服は着ているが、荷物は全て置いて来てしまった。が、来てしまったものは仕方がないし、なにも履いていないのは流石に心細いので、とりあえず昇降口に行って上履きを履いた。
 どうしたものか。自分の教室へと歩きながら思案する。冷静になって考えてみれば、人の体を突き抜けるなんておかしい。今だって、普通に廊下を歩いているということは、足の裏に確かにその感触を得ているということだ。だというのに、先ほどはコップが手をすり抜け、さらに、家族には体がかすりもしなかった。
 試してみよう。そう決断するのに時間は要らなかった。歩いている人物に後ろから手で触れる。ぶつかってしまったと、謝ればいいし、前からぶつかられるよりはまだまし。最悪、逃げれば顔はわからない。
 決断した後は実行に移すだけ。万が一を考えて、強面の男子だったら嫌なので、謝れば許してくれそうな大人しそうな人を探した。
 すると、格好の標的が現れた。我がクラスの小動物系女子、結川まどか。いつもほわわんとしていて、怒ったところなど、見たこともない。話したことはないが、一応クラスメイトだし、顔ぐらいは知っているだろう。多分。俺の名前は絶対に覚えてないと言い切れるが。
 俺は出来るだけさりげなく、そして、他の人への事故アピールのため、よそ見をしながらやや早足で歩く。距離一メートルを切り、若干緊張してきたが、ことの真相を確かめるためにやらない訳にはいかない。
 五十センチ、三十センチとあっという間に距離が縮まってきて、そして――ゼロ。そのまま距離はマイナスへと。つまり、俺の体は彼女の体を何事もなくすり抜けた。いや、何事もなくというのはおかしな表現だ。何事もないなら、本当はぶつかっている筈なのだから。
 俺は脱兎のごとく駆け出し、トイレへと駆け込んだ。
「…………」
 どうやら、俺は透明になってしまったらしい。確認のために鏡を覗いてみたが、俺の平凡そのものの顔は影も形も見えず、俺の背後の景色を映しているだけ。色んな角度から見てみても、それは変わらなかった。しかし、俺の手は確かに目に見えている。ただ、鏡に映らない。
「……ゆう、れい?」
 そういう存在に心当たりがあるとすれば、そういう類のものだ。今の状況をまとめると、物に触れられず、鏡にも映らない。うん、まるっきり幽霊だ。足はあるが、幽霊に足があるかどうかなんて、本当のところは知らないので、どうしようもない。
 俺はトイレを出て、なんとなく教室へと向かった。階段を上り、二階の一番手前が自分の教室。
 そこへ入ろうとして、入口に立つと、突然人が飛び出してきて、俺は驚いて転んだ。と思った途端、俺の体は床をすり抜けて、一階へと落ちた。床に激突する痛さを想像し、体が硬くなるが、どうすることも出来ず、俺は二メートル以上の距離から床に落下する羽目になった。
 背中からもろに落ち、まともに受け身も取れなかったため、全身が砕けるかというような衝撃に転げまわる余裕もなかった。息がつまり、しばらく動けなかったが、視線だけで見回すと、すでそれなりの人が登校してきているにも関わらず、俺には目もくれない。
 本当に見えないし、俺の立てた音も何もかもが届いていないようだ。
 本当の意味で状況を理解し、何故二階から落下したか推測したがわからない。正直ちんぷんかんぷんだ。そして、わからないことに何時までも時間を費やして考え続けるのは不毛以外のなにものでもない。
 そして、それは一つの確認のためにいったん家へと帰ることにした。
 打ち付けた痛みで、未だに体は強張っていたが、動けない程じゃない。のろのろと立ち合がり、俺は上履きのまま学校の外へと出た。

       ●

 家に帰りついた俺は、ドアノブを掴もうとした手が見事すり抜けて、思わず転びそうになった。今朝は触れられたというのに、訳がわからない。だが、ノブを回さずとも、体ごと扉をすり抜けられた俺は二階へと向かった。階段はすり抜けることなく、確かな感触を足裏に返す。
 自室の前に立ち、一つ深呼吸をした。自分の死体と対面するかもしれないことへの準備だ。
 決心がつき、扉をすり抜けて中に入ると、そこには意に反してなにもなかった。その言い方は正しくない。そこには死体などなかった。いつも通り、整理もあまりしないせいで本やCDが散らかった部屋。
 とりあえず。俺の死体はなかった。だとしたら、この状態は一体なんなのか。
 心当たりを探るとしたら、数日前のあの優男。見つかるかどうかはわからないが、これ以上の手掛かりがない以上、探すしかないのだろう。幸い、学校をさぼったから時間はたっぷりある。
 俺は繁華街へと向かった。無論、というべきか、電車は無賃乗車。いや、手がすり抜けるせいで切符が買えないのだ。どうしようもない。どうやら、乗り物には乗れるらしい。それを考えると、足裏はきちんと触れられるのかもしれない。そんな感じもする。
 自宅の最寄り駅から二駅。
 平日の朝だというのに、それなりの人数がこの駅で降り、メインストリートへと向かった。まあ、大学生にもなれば、授業の関係上平日でも休みなことは十分にありえるだろう。
「さて……」
 聞かれる心配がない俺は、一人呟き、ざっと辺りを見回した。そして、ここに来たことを早くも後悔した。まだ混雑というには程遠いが、それなりの人数がここにいる。その中から一度見ただけの男を探すなんて至難の業だ。
 俺は馬鹿馬鹿しくなって、道路と歩道を隔てる背の低い柵に腰掛けた。無暗に歩き回って体力を消耗するぐらいなら、一か所にとどまっていた方がまだましだ。
「…………」
 一時間が経った。通る人はそれなりにいるが、その中にあの優男はいない。前回見かけたのが夕方だったから、今回現れるとしても、その時間までは来ない可能性もある。
 なにもしない時間がここまで退屈だとは思わなかった。誰も俺を気にしない。歩いていても避けられさえしない。どうせ触れられないのだから、どっちでもいいのだが。
「ねぇ」
 いっそ、このまま車の前に飛び出したらどうなるだろうか。その時だけ、今朝コップを持てたみたいになって、車と衝突するかもしれない。
 どうせ、だれも俺のことなんか気にしてない。学校ではいてもいなくても同じ。
 ああ、だからかもしれない。俺が透明になったのは。
「……ねえってば」
 先程から顔の横でだれかが喋ってる。一人のところを見ると、どうやら電話のようだが……
「怒るよ?」
 ふっと、腕が伸びて来て、俺の頭を握った。指先ががっちり食い込み、
「イテテテテテ――」
 アイアンクローが決まった。
「ちょ、いきなりナニ? 誰だか知らないけど離せ」
 腕をタップすると、拘束が解け、地面に放り出された。
「キミが無視するから」
 痛みにしばらくもがいてから顔をあげてその人物を見上げる。
「誰?」
 見知らぬ顔だ。先日の優男でもなければ、クラスメイトでもない。第一、いきなりアイアンクローされるいわれなどない。
「ダレとは失敬ね。キミの同類だよ?」
 大仰な動作でそうのたまう。だが、俺は気が付いた。大仰な動作で振り回された手が、通行人の頭をすり抜けたことに。
「同類って……この透明人間的な状況の?」
 恐る恐る問うと、その人物は実に愉快そうに頷いてくれた。その際、プラチナブロンドの長髪が揺れる。
 俺は何時までも地面に座り込んでいるのが恥ずかしくなって、立ち上がる。改めていきなりアイアンクローをかましてくれた人物の容姿を見る。
 腰まで届く金糸のような髪に、妖しさを感じる濃い紫色の瞳。胸は絶壁だった。うん、絶壁だった。大事なことなので二度言いました。自分より年下の、
「女、だよな?」
 重ねて問うと、笑顔なのになんだか威圧感が増した。
「それはどういう――?」
 ゆらりと手が動き、顔を掴もうとする。
「いや、なんというか……そう、非現実的な可愛さというか。ね?」
 恐怖に顔が引きつるながらも必死に弁解すると、彼女は手をおろし、華やぐような笑顔を浮かべ、
「そう、そういうことなら仕方ないね。だってボクはこれ以上ないくらい可愛いものねっ」
 なんてことを臆面もなく言い放った。
 なんだか、変なのに絡まれた。もしかしたら、俺にとって繁華街は鬼門だったのかもしれない。
「そうそう、自己紹介ね。ボクはレア。苗字は……まあいいよね。キミは?」
「ああ、俺は光樹。苗字はいいよな」
「ミツキ、ミツキ……うん、覚えた」
 すっと自然に手を差し伸べられた。そういえば、あきらかに外人なのに、最初に聞いたのが普通に日本語だったためか、あまり違和感を感じない。
 俺は握手に応じ、それから彼女に促がされるままに繁華街の外れにある公園へと連れてこられた。
「座りなよ、ミツキ」
 促がされ、彼女の隣に少し距離を開けて座る。すると、彼女はお尻の位置をずらして距離を詰めてくる。だが、明らかに詰め過ぎで、体が密着している。
「…………」
 無言で離れると、再び近寄ってきて、それを数度繰り返すと、ついにベンチの端まで来て逃げ場がなくなった。
 しょうがない。ここは彼女のするがままにしておくしかないようだ。
「で、えーと……結局、俺らってなんなわけ?」
 単刀直入に切り出すと、レアは少し首を傾げ、
「世界に捨てられた存在、かな……? あ、でもどちらかというと捨てたのはニンゲンか」
「は?」
 人間が俺を、俺たちを捨てた? なんだそれは。まるで、俺の存在がまるで必要ないかのような――いや、そうだった。俺は必要のない人間だ。その諦観はすとんと腹の底に落ちてきて、納得してしまった。
「納得、しちゃえるんだ?」
 そう呟く彼女を見ると、さびしそうな顔をしていて、俺は少しどきりとしてしまった。
「だって、ほんとに必要ないからな。居ても居なくても同じってのはそういうことだろ?」
「……そう、だね。キミがそうなる原因は確かにあったわけだから」
 彼女はそこで言葉を切り、深く俯く。
「キミにいなくなってほしいと願ったヒトがいるってことだよね。ボクのときもそうだった。あの薬は服用者の願いを叶えるんじゃない」
「それはどういう――」
 しかし、問う途中で半ば気付いた。『願いを叶える薬』の正体に。こんな時ばかり冴えるこの頭が恨めしかったが、今さらどうしようもない。つまり、あの薬は、

――それを飲んだ時に、その服用者に向けられた一番強い願いを叶える

という、馬鹿げた効能があったということだ。
「でも、あの優男は――」
「そのヒトがダレだかはしらないけど、それは彼にそうあってほしいと願うダレかがいて、願いが一致したからだと思う」
「……要らない子、か。まあいいさ。あんな親うんざり。こっちから願い下げだ」
「まあ、今さらどうしようもないからね。もう一度あの薬を飲んだことがあったけど、なにも起こらなかったから」
 そいつは救いがない。だが、俺はもうどうでもいいと思っていた。ついでに言うと、情報が得られた以上、この少女のこともどうでもいいと思い始めていた。多分、こいつがこんなにも引っ付いてこようとするのは寂しさの現れなのだろうが、そんなもの俺にはなんのかかわりもない。たまたま同類で、たまたま出会っただけの少女。
 俺は立ち上がり、その場を去ろうと足を踏み出そうとすると、か細い声で、
「たすけて」
 そう言った。だが、俺は聞こえなかったふりをしてそのまま帰ろうとすると、背後から軽い足音がして背後から衝撃を受けた。その反動で前のめりに倒れそうになったが、少女の細い腕が腰に抱きつき、それを止める。
「なにすん――」
 だ、という声は口を出なかった。少女の嗚咽がそれを言わせなかった。
「たす、けて……ん、えく……ほし、ひとが……う……い、いるの」
 涙に咽びながら、必死に言葉を作るレア。俺は地面を見つめ、彼女の言葉を反芻する。

 『助けてほしい人がいる』

 多分、彼女自身じゃない、誰かのことを助けたいと言っている。なんなんだ、この女。正気じゃない。
「離れろ」
 付き合いきれない。まずは言葉で。しかし、腕を離そうとしない彼女に苛立ち、俺はその腕を力で振りほどこうとして、
「い――」
 腰が、
「いてえぇぇぇえぇぇぇっ!」
 少女の細腕だと思っていたら、恐ろしい力で締め上げられて腰が砕けそうだった。そう言えば、この女、出会いがしらにとんでもないアイアンクローをかまして来たんだった。みくびってた。
「た、タップタップ――マジでいたい。ぐお――」
 腕を再びタップする羽目になって、ようやく解放された。
「たずけで」
 まだ涙の残る声でレアがなおも言う。俺は彼女の顔を見ないまま、
「こんなになってまで、助けたいなんて正気じゃねえよ!」
 怒鳴る。訳がわからない。これ以上付き合いたくない。そんな感情からの行動だったのだが、
「死んじゃうかもしれないの!」
 それを上回る声で告げられた内容に思考が飛ぶ。
「もうすぐ手術なの! でも、ボクがこうなっちゃったからお見舞いにもいけなくて――」
 だから、せめてなにかしたい。彼女はそう言った。泣きながら、でも、大切な誰かを確かに想いながら。
「どうして俺なんか」
「キミ、だからだよ?」
「へ?」
 レアの思いもよらない言葉に間の抜けた声をもらしてしまう。
「優しいキミだから」
「わけ……わかんねぇ……」
「いいよ。わかんなくて」
 でも助けてほしいと、レアは言い募る。必死に、何度も、頭も下げて、最後には土下座までしそうな勢いで。
 俺は自分に言い訳した。これはこいつがあんまりにもしつこいから、根負けしたんだと。決して、必死な姿に共感したからじゃないと。
「……わかった。協力する。すればいいんだろ」
 渋々、その言葉を口にする。だというのに、レアときたら、信じられないものを見るかのようにあんぐり口をあける始末。お前が言い出したんだろうに、なにそんな顔してんだか。
「ホントに? ねえ、絶対? 嘘つかない?」
「ホントだよ。その代わり、これが終わったら付きまとうなよ?」
「あっ――うん、わかった。キミがそういうなら」
 少しの逡巡の後、レアはそう言って条件を飲んだ。
「で、具体的にはどうするんだ?」
 ベンチに座り直し、助けるための作戦を聞く。
「正直、死ぬかもしれないのは回避できないだろ?」
 当たり前だ。いくら俺たちが死を回避できるような力を得たわけじゃない。それは医者の仕事だ。だから問う。
「つまり、手術の前にそいつを元気づけたい。OK?」
「うん」
「で、どうやって元気づけるつもりだった?」
 レアはしばらく俯いていたが、やがて口を開く。
「遊園地……遊園地に行きたいって言ってた。美羽は子供のころからカラダ弱くて、お父さんもお母さんも忙しかったから」
「遊園地、ね……」
 正直無理難題ではなかろうか。なにせ、手術を控えた子供を連れだして遊園地に連れて行かなければならないのだ。当然医者は許可を出さないし、それ以前に誰が連れて行く。見えないし触れない俺たちじゃどうしようもない。
「あの、一つ言い忘れてたけど」
「ん?」
「ボクたちって、物にはさわれるんだよ。ちゃんと掴もうとしないとすり抜けるけど」
「だよな。そうじゃなきゃ、座れないはずだしな」
 座ること自体は当然だと思ってるから触れることが出来る。しかし、俺が学校で床をすり抜けた時、あれは俺が床を見失っていたからすり抜けたのだろう。
「……ちょっと方法を考えさせてくれ」
 そう彼女に告げ、その日は別れた。別れ際にこの体の特徴をいくつか聞けたのは収穫だった。

       ●

 実を言うと、彼女に方法を考えたい、そう言ったのは嘘だった。すでに、あの時点で俺はある判断をしており、今はそれに従って行動をしている。
 人間には姿の見えない俺たちがレアの友人を遊園地に連れて行くことは不可能だった。つまり、俺たちには協力者が不可欠だった。レア曰く、物には干渉できるとのこと。なら、と思って取った手段は手紙だった。シンプルな便箋を、これまたシンプルな封筒に入れて封をする。
 宛て先は……結川まどか。彼女ならせめてお見舞いぐらいは行ってくれるだろう。そう踏んでの人選だった。いや、俺にこんなことを頼める親しい友人がいないことを責めないで欲しい。
 内容としては、いきなり遊園地云々を書くのは避け、その子の友人がしばらくお見舞いに行けないから代わりに相手をしてやってほしい程度のことだ。
 俺はその手紙を結川の下駄箱に入れ、彼女が登校するまで張り込んでいた。登校時間がそう遅くないのが救いだ。
 しばらく待っていると、案の定、昨日とほぼ同じ時間に彼女は現れた。何が待ってるとも知らず、彼女はごく普通に下駄箱の蓋を開き、そして、入っていた物を目に止めたのか、小首を傾げてしばし静止していた。
 危険物ではないと判断したのか、手を伸ばし、ひっくり返して差出人を確かめている。俺も名を隠す必要もなかったし、普通に書いたが。
「涼城くん……昨日来てなかったけど、どうしたのかな……」
 ぽつりと漏らされた言葉に俺は驚いた。いくら同じクラスとは言え、いちいち俺が休んだことを気に留めているとは夢にも思わなかったからだ。
 彼女はその場で手紙を開封するようなことはせず、そそくさと鞄に手紙をしまいこみ、それからきょろきょろと辺りを見回した。もしかしたら、俺を探しているのかも知れない。
 見回していた時間はそう長くなく、すぐに結川は自分の教室に向かった。部活の朝練をしている連中はまだ帰ってくるには早いし、この時間の教室は閑散としている、というより、今は結川と彼女には姿が見えないだろうが俺がいるだけだった。
 結川は誰もいないことをまさしく小動物の如く確認してから、しまった手紙を取り出して丁寧に封を開けた。
 便箋に目を通す表情はいたって真剣だった。読み進めるうちに難しい顔になる。そりゃ、いきなり知らない人間のお見舞いに行ってくれと頼まれても困惑するだけだろう。
 しばらく便箋から目を離さなかった彼女だが、やがて鞄から携帯電話を取り出して、操作をした。何をしているのかと思った途端、俺の携帯が鳴りだした。俺は突然のことに驚いて、慌てて取り出して表示を見る。
 この体の最大の特徴だろうか。とにかく認識されない。それは俺が所持しているものにも適用されているようで、つまり、俺が物を持って暴れまわろうが誰も認識できないわけだ。
 で、こんな時ほど助かったと思うことはなかったが、俺の目はなり続ける携帯の表示に釘付けだった。見知らぬ番号。そして、結川の方を見ると耳に携帯を押し当ててじっとしている。
 勘違いでなければ、この電話は結川からだろう。なんで番号を知ってる。教えたことなんかない。
 俺はしばらく迷ってから、留守着になる寸前で通話に応じた。
「誰?」
 第一声はそれ。そりゃそうだ。『見知らぬ』携帯の番号からかかってきた電話なのだから。すると、電話口の向こうで、少し慌てた声で、
『あ、あの、同じクラスの結川でしゅ――』
 噛んだ。俺は横目で彼女の姿を眺めながら笑い出しそうになるのを堪えた。
「結川? どうして俺の番号を?」
 正直そんな会話はどうでもいいのだが、あっさり本題に入ってしまうのは状況として不自然。彼女は目に見えて狼狽しながら、
『あにょ……』
 また噛んだ。電話慣れてないんじゃなかろうか。そんな心配が頭をよぎったが、気にしても仕方ないことだった。
『クラスのみんなの番号、集めてて』
「あ、そう。で、いきなり電話してきて何の用?」
 理由については軽く流し、惚けたふりして要件を聞く。
『手紙のことだよ。それと、昨日学校を休んだこと。心配してるんだよ。家からも連絡なかったみたいだし……今日は来るんだよね?』
「いや、行かない。用事があるからな」
『そう……うん。あたしがとやかく言えることじゃないけど、ちゃんと学校には来てほしいな。クラスメイトなんだから、心配するよ……で、用事って手紙に関係したこと?』
「とにかく行かないったら行かないからな。お前が何言おうとも、だ。ああ、手紙と関係あるよ。内容は全部読んだってことでOK?」
『うん、読んだよ。涼宮くんの友達のそのまた友達の美羽ちゃんが入院してるけど、お見舞いに行けないから、代わりに行って欲しいって。そういうことだよね?』
「ああ、あってる」
『でも、なんであたしなのかな。その……友達とかじゃなくて』
 その言葉への回答に逡巡したが、
「適任だと思ったから。それじゃダメか?」
『ううん、ダメとかそんなのじゃなくて。ただ、なんでだろう、って思ったから。そっか。あたし、涼宮くんに信頼されてるんだよね。そういうことでいいんだよね?』
 電話口の声はなぜだか弾んでいて、横目で見る彼女の表情も心なしかうきうきしているように見える。そんなに人に頼られたいのか、この小動物系は。
「ああ、多分、そうなんだと思う。お前以外考えられないから」
 それは俺の選択肢があまりに少ないから。だが、先方はそう取らなかったようで、明るい声で、
『うん、じゃあ、頼まれちゃう。さっそく、今日の放課後行ってみるよ』
「ありがとう。面倒かける」
『ううん、こちらこそありがとう。じゃあね。あ、でも、ちゃんと学校には来るんだよ。少しは大目に見るけどっ』
「わかったよ。近いうちにな」
 なんで結川がお礼? なんて思いながら通話を終え、俺は一度結川の正面に立って一度頭を下げる。見えないだろうが、一応の礼儀だ。結川の顔が緩んで見えたのは、頼られたことへのうれしさだろう。
 俺はこれ以上ここで油を売っているのも時間の無駄なので、早速次の作業に取り掛かった。

       ●

 向かった先は遊園地。市内に位置する小さなものだが、一通りのアトラクションが揃っている
 何で来たか。理由は簡単だ。下見。だが、ただの下見じゃない。子供の頃から体が弱く、手術を控えている美羽を連れ出すのは夜しかできないのだ。昼間だと、定期的に看護師が訪れるからすぐにばれる。だから、夜に遊園地を動かすための方法を調べる。それが俺の仕事だ。
 マニュアルを読むだけでは十分でないので、実際に稼働させている現場を見たりして、全てを覚えていく。
 いつの間にか時間は過ぎ、学校が終わる時間になっていた。
 結川は放課後に訪ねる予定だと言っていたから、今から行けばその様子を確認できる。
 病院のある駅へとたどり着くと、そこには地図を見て場所を確かめている結川の姿があった。どうやら、彼女もたった今辿り着いたらしい。
 歩き出した結川の隣に立って歩くが気付く気配はまったくなし。電話をかけてやろうかという悪戯心が芽生えかけたが、すぐにやめようと思い直す。
 病院へ辿り着いた彼女は、受付で部屋を確認することもなく、手紙に書いた部屋へとまっすぐに向かった。
 控えめにノック。中から、少女の声が答えた。
「はい、どなたですか?」
 いささか大人びた物言い。
「あの、お見舞いにきたんだけど。入ってもいい?」
 結川はてらうことなくそう尋ね、了承の返事を得ると扉を開けて中に入っていった。
「こんにちは。美羽ちゃん、だよね?」
「お姉さんは?」
「あ、うん。あたしはレアちゃんのお友達で、代わりにお見舞いに来たの」
 レアの名前を出した途端、美羽の顔が曇る。
「レアちゃんの……そう、ですか」
「結川まどかっていうの。レアちゃん、しばらく来れないみたいだから、あたしでなにかできないかな、と思って。話し相手くらいにはなれるよ」
「わたしがあんなこと言ったから、だからレアちゃん来てくれないの?」
 唐突に顔を歪め、涙をこぼし始めた美羽に最初こそ戸惑っていた結川だったが、やがて美羽の華奢な体を抱き締めて、
「ううん、そんなんじゃない。ちょっとね、今は遠くにいるだけ。すぐに会えるよ」
「ほん、と?」
「うん、ほんと」
 しばらくあやしていると、美羽の涙は収まり、少しだけ笑顔を見せた。そして、目は俺の方を見た。
「お兄さん、ずっと立ってるけど、お姉さんの友達?」
「!?」
 愕然とした。見えてる。
 結川も美羽の言葉に驚き、そして、視線の先を追うが、焦点が合ってない。彼女には見えていない。
「…………」
 どう切り抜けるか、一瞬だけ迷い、そして、
「お兄さんはね、魔法使いなんだ。君の願いを叶えに来た」
「まほう……つかい」
 茫然と、だが、どこか陶然と呟き、そして、笑顔をはじけさせた。
「レアちゃんと会いたい!」
 純粋無垢な彼女はそう声をあげた。俺はその言葉に応えて頷き、
「うん、その願いかなえてあげる。もう一つの願いと一緒にね」
 俺は笑いかけ、そして、壁をすり抜けてその場を去る。部屋の中からは「ほんとに魔法使いだ」、とはしゃぐ声と結川の戸惑う声が聞こえたが、俺は笑いながら病院を出た。

       ●

 決行の日取りは決めた。遊園地の設備は大概把握し終え、そのための準備も入念に行った。
 そして、結構の前日、俺は自ら結川に電話をした。電話口に出た彼女は最初こそ慌てていたが、俺が明日の詳細を語り始めると口数が減っていった。
 最後に彼女は、
「わかった。信用してるからね」
 そう言った。不安は口に出していたが、結局彼女は俺の計画に従ってくれた。信用を裏切るわけにはいかない。

       ●

 翌日、俺はとある場所にいた。目の前にはいつぞやの優男。無論、彼は俺の存在になど気が付いていない。
 ここに来たのには理由があった。あの天使の羽を模った錠剤を手に入れるためだ。彼の死角をついて家探しすると、一つだけ見つけることができた。
 俺は夜になってからレアと合流すると、美羽の病室へと向かった。手筈は伝えてあるが、彼女は不安を隠しきれていない。
 レアは病室に入ると、穏やかに眠る美羽の顔を眺めて頬を緩ませていた。その様子を横目に、俺は水をコップに汲み、錠剤を溶かし込む。多分、効き目はあるはずだ。これがないと、美羽の願いを叶えられない。そして、今度こそちゃんとした形で彼女たちの願いは叶う。
「レア、のど乾いただろ。水飲むか?」
「うん、飲む」
 彼女は疑いもなく水を受け取り、一気に中身を干した。その途端、彼女の体が跳ねる。
「な、にを……」
 その目が焦点を失いかけながらも、俺のことを訝しがる表情を向けていた。俺はなにも答えず、ただ彼女の意識が途絶えるのを見守った。
 しばらくして、俺はレアに触れようとして、しかし、手はなんの抵抗もなくすり抜けた。成功した。
 後は時間通りに結川が来るのを待って、遊園地に行けばいい。足となる電車はまだ動いている。子供二人の世話をさせるのは少々酷かもしれないと思ったが、彼女にはとことん付き合ってもらおう。
 約束の時刻ちょうど。携帯が振動して着信を告げ、俺は電話を受けると同時に行動を開始した。
 障害は俺がすべて排除した。裏口の鍵を開け、警備員の巡回を避ける。そうして誘導した結川はそこに眠る二人を起こす。
 レアは最初なにが起こっているのかわかっていないようだった。だが、理解が広がるにつれ、その顔にも歓喜が広がる。美羽も親友との再会に涙を浮かべて喜んだ。俺はそんな二人の姿をずっと見て居たいと思ったが、もう一つの願いを叶えなければいけない。
 騒ごうとする彼女たちを結川が必死になだめ、行き同様、俺の指示に従って遊園地へと向かった。
 深夜の遊園地。
 無人の遊園地に所在なさげに立つ三人。俺は園内のスピーカーを通して明るく告げる。
「ようこそ、夜中の楽園へ。今宵は、貴方がたのために用意した特別なプレゼントです。どうぞ、心行くまでお楽しみください!」
 照明のスイッチ――入れた。一斉に照らし出される楽園の風景。彼女たちだけのために用意された特別な場所。
 小さな少女二人はもちろん、監督役の結川まで目を輝かせてはしゃいでいた。
「レアちゃん、お姉さん、アレ乗りたい」
 そう言って指差したのは、メリーゴーランド。俺は頬を緩め、しかし、マニュアルの手順にしっかりしたがって、安全第一で稼働させる。
 華やかな音楽ときらめく馬車に乗った三人の眩しい笑顔。
 三人はメリーゴーランドを降りた後も、立て続けにアトラクションを楽しんだ。
 やがて、楽しみ疲れた二人は、ベンチで結川にひざまくらされてすやすやと寝ていた。
「本日の魔法はあと一つ。本日は、夜中の楽園へお越しいただき、誠にありがとうございます。お帰りのさいはこちらにお乗りください」
 全ての照明を落とし、アトラクションも止める。証拠をすべて消し去った後、俺は自転車式のタクシーで彼女たちの前に現れた。
「これが最後の魔法」
 電話越しに結川へ告げる。彼女は二人を起こさないように座席に座らせ、自らも乗り込む。
 俺は三人がちゃんと乗ったのを確認すると、ペダルをこいで発進した。
 俺の姿が見えないせいで、この自転車タクシーは無人で動いているように見えるだろう。結川の視線はサドルに注がれているのがミラー越しにわかった。
 病院に至るまで、互いに無言だった。電話がないと喋れないせいもあっただろうが、それだけではない気がする。
 美羽をもとの病室へと戻し、レアも一緒のベッドへ寝かす。
 これで彼女たちは元通り。
 俺の最後の仕事はすでに終電のなくなった結川を家に送り届けること。電話でそう告げると、彼女は少し遠慮したが、結局大人しく乗った。だが、彼女は電話を切ろうとはせず、他愛もない世間話を家に着くまでの間延々とした。俺は相槌を打ったり、彼女のボケにツッコミをいれたり。
 家についた。それでも電話をなかなか切ろうとしなかった結川は、最後にこんなことを聞いてきた。
「光樹くん、また会えるよね?」
 その言葉に俺は小さな笑みを浮かべて答えた。

「    」

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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コメント

はじめまして、短編小説を書こう会の参加者で岡ざきこです。作品を読ませていただきましたので、少しコメントを。

ひとつ個人的な感想ですが、短編小説にしては登場人物が多いところが気になりました。
この物語のキーパーソンはレアなはずです。今回の話を動かしたのは彼女だと思ったので。彼女の助けて、という言葉があったからこのストーリーはあるわけです。しかし、その後のレアの存在感なさすぎません?  
 短編としてはストーリー進行に絡む登場人物が3.4人を超えるとキツイと思います。一人一人の個性やら、キャラが薄くなって、そのせいで面白い話も淡泊になっちゃいます。僕は今回のラナフェリアさんの作品を読んでそう感じました。

 参考までに。
 レアを生身の人間にして、協力者の結川を登場させないで、進行させるのもアリだと思います。協力者の役をレアが担うことになり、少し内容は変わってしまいますが、短編小説らしいスケールでまとめられる気がします。
 しかし、一番可愛い結川がいなくなるのはもったいない気もしますね(笑) 主人公のことを好きな仕草、噛むところ、お姉さんらしいところ、などなどいい可愛さでした! キャラ出てて可愛かったです。しかし、レアの役どころを持って行きすぎてる。し、唐突に活躍しすぎな気もしました。
 
全体として、錠剤の効果、使い方、美羽ちゃんには見える主人公、など設定や話作りをおもしろく考えられていて、良かったす。最後の主人公のセリフがどうなのか、僕なりに考えたり、楽しめました。

 主人公は見知らぬ女の子のために協力したり、遊園地の使い方を一生懸命マニュアル読むどころか現場をみてまで覚え、安全にまで気を配れる、真面目でいいやつ! それに加えて好いてくれる女子までいる。
 というのに、一番強い願いが消えて欲しい、だなんて悲しいと思いました。母親の願いなのかどうなのか、はっきりはしませんが、引っかかりました。

 忌憚のない、ということで個人的な意見まみれでしたがコメントさせていただきました。
 また、ブログに遊びにこさせていただきます。失礼しました。

岡ざきこさんへ

こんばんは。

> はじめまして、短編小説を書こう会の参加者で岡ざきこです。作品を読ませていただきましたので、少しコメントを。
はじめまして。
グループ外の作品として選んでいただいたようで、ありがとうございます。
のちにボクも感想を残しに行きたいと思います。


> ひとつ個人的な感想ですが、短編小説にしては登場人物が多いところが気になりました。
> この物語のキーパーソンはレアなはずです。今回の話を動かしたのは彼女だと思ったので。彼女の助けて、という言葉があったからこのストーリーはあるわけです。しかし、その後のレアの存在感なさすぎません?  
>  短編としてはストーリー進行に絡む登場人物が3.4人を超えるとキツイと思います。一人一人の個性やら、キャラが薄くなって、そのせいで面白い話も淡泊になっちゃいます。僕は今回のラナフェリアさんの作品を読んでそう感じました。
確かに、レアの存在が薄くなってしまいました。
もう少し、分量に余裕があればもう少し絡みを増やしたかったのですが、未熟ゆえバランスのとり方に失敗しました。


>  参考までに。
>  レアを生身の人間にして、協力者の結川を登場させないで、進行させるのもアリだと思います。協力者の役をレアが担うことになり、少し内容は変わってしまいますが、短編小説らしいスケールでまとめられる気がします。
>  しかし、一番可愛い結川がいなくなるのはもったいない気もしますね(笑) 主人公のことを好きな仕草、噛むところ、お姉さんらしいところ、などなどいい可愛さでした! キャラ出てて可愛かったです。しかし、レアの役どころを持って行きすぎてる。し、唐突に活躍しすぎな気もしました。
なるほど。レアを生身にするのも手ですね。結川を消さないまでも、二人をセットにすればある程度は緩和できる気もします。
それにしても、結川を気に入っていただけたようで何よりです。
彼女は書いていて楽しいキャラだったので、つい出番を増やしてしまったようです。


> 全体として、錠剤の効果、使い方、美羽ちゃんには見える主人公、など設定や話作りをおもしろく考えられていて、良かったす。最後の主人公のセリフがどうなのか、僕なりに考えたり、楽しめました。
錠剤の効果は少し意外性を狙った結果、ああなりました。


>  主人公は見知らぬ女の子のために協力したり、遊園地の使い方を一生懸命マニュアル読むどころか現場をみてまで覚え、安全にまで気を配れる、真面目でいいやつ! それに加えて好いてくれる女子までいる。
>  というのに、一番強い願いが消えて欲しい、だなんて悲しいと思いました。母親の願いなのかどうなのか、はっきりはしませんが、引っかかりました。
実を言うと、主人公を消した願いというのはちゃんと設定があるのですが、それを本文中に書くとくどいと思ったので、語らずに終わらせました。
ヒントとしては、レアのセリフのどこかです。


>  忌憚のない、ということで個人的な意見まみれでしたがコメントさせていただきました。
>  また、ブログに遊びにこさせていただきます。失礼しました。
いえいえ、色々突っ込んでくれたおかげでいい刺激を受けられました。
今後に生かせそうな意見もいただけてうれしい限りです。
ボクも感想を書くだけでなく、岡ざきこさんのブログに遊びに行きたいと思います。

コメント&感想ありがとうございました。

短編小説を書こう会からです。


初めまして。短編小説を書こう会から来ました。
僭越ながら感想を述べさせて頂きますね。


姿が見えなくなってしまう薬
正体不明な男
また正体不明な女の子
同級生の結川さん


そして病弱な女の子のために夜の遊園地を動かす、というアイディアが面白かったです!


ただ少し残念に感じたのは、前半に読み手を引き込む力が若干弱いかな、と思いました。

物語のテイストによってはわざとゆったりとした話し運びの場合もありますが、このお話でしたら最初から猛スピードで駆け抜ける、というような雰囲気が合っていると思いました。


そして、やっぱり読後に気がかりが残る点がいくつかあり、この作品ももう少し読みたいな、というように感じました。

面白かったです!!

Re: 短編小説を書こう会からです。

> 初めまして。短編小説を書こう会から来ました。
> 僭越ながら感想を述べさせて頂きますね。
こんばんは、初めまして。
この度は拙作をお読みくださってありがとうございます。


> 姿が見えなくなってしまう薬
> 正体不明な男
> また正体不明な女の子
> 同級生の結川さん
> そして病弱な女の子のために夜の遊園地を動かす、というアイディアが面白かったです!
アイディアが面白いと言ってもらえるのはやはりうれしいものです。


> ただ少し残念に感じたのは、前半に読み手を引き込む力が若干弱いかな、と思いました。
>
> 物語のテイストによってはわざとゆったりとした話し運びの場合もありますが、このお話でしたら最初から猛スピードで駆け抜ける、というような雰囲気が合っていると思いました。
そうですね、前半のミツキのあたりは蛇足だった気もしています。
だったら、最初から姿が見えなくなった状態で開始した方がよかったかも、とは思いましたが、今回はこうなりました。
確かに、最初のだらっとした雰囲気よりは何かのために頑張ってる主人公を猛スピードで描いていた方が良かったかもしれないです。


> そして、やっぱり読後に気がかりが残る点がいくつかあり、この作品ももう少し読みたいな、というように感じました。
>
> 面白かったです!!
その気がかりが消化不良でないことを祈ります><
ただ、もう少し読んでいたい、そう思ってもらえたなら、余韻を残せたということで、この物語の趣旨の半分は達成できたかな、と思います。

近いうちに感想を書きにまいります。

よろしければ、ボクの企画している鬼企画にも参加してください!

感想

 企画参加者の如月奏です。読ませていただいたので、感想をお書きしようと思います。

 まず、錠剤の存在が初めから終わりまでずっと意味を持ち続けていて、全体的によくまとまっているなと感心させられました。結川さんのキャラクターもいい味を出していて、楽しませていただきました。

 ただ、「なぜキミだから」だったのか、分からずじまいで終わってしまったように感じました。個人的にはすごく気になります。


 執筆もよくされているようで、表現力の高さがうかがえました。今後も執筆頑張ってくださいませ。

Re: 感想

こんにちは。

>  企画参加者の如月奏です。読ませていただいたので、感想をお書きしようと思います。
ありがとうございます。


>  まず、錠剤の存在が初めから終わりまでずっと意味を持ち続けていて、全体的によくまとまっているなと感心させられました。結川さんのキャラクターもいい味を出していて、楽しませていただきました。
まとまっていましたか。
短編は初めて書くもので、配分などが少々わからないところもありましたが、そのような感想をいただけてよかったと思います。


>  ただ、「なぜキミだから」だったのか、分からずじまいで終わってしまったように感じました。個人的にはすごく気になります。
ここは書いてしまうと冗長になると感じ、読者の想像にゆだねた部分でした。


>  執筆もよくされているようで、表現力の高さがうかがえました。今後も執筆頑張ってくださいませ。
はい、今後も執筆活動に精を出していきたいと思います。

感想、どうもありがとうございました。

感想です!

感想が遅くなってしまい申し訳ありません(汗)
同じ企画に参加しているNominです。
さっそくですが感想を述べさせていただきます。

まず、全体的にシンプルで読みやすかったです。
主人公の目的も明確で、行動にも順序があり、最後まで安心感がありました。
冒頭から出てくる謎の優男から物語が始まるのも、面白い入り方でした。
「なるほど。勉強になるなぁ」なんて思いながら、最後まで読ませていただきました。

全体的には、初めての短編とは思えないほど、構成の整った物語でした!
もし一つ注文をつけるとしたら、
例の優男にもう少し活躍する機会を与えてほしかったです。
例えば、光樹くんが錠剤を探しに行った先で、
優男と主人公となんらかの取引をするとか、です。

最後の光樹くんの行った一言が気になります。
物語を終わらせないような余韻を残す終わり方で、
未だ物語が続くんじゃないかと思ってしまうほどです^^

次回作楽しみにしています!

Re: 感想です!

こんにちは。

> まず、全体的にシンプルで読みやすかったです。
> 主人公の目的も明確で、行動にも順序があり、最後まで安心感がありました。
> 冒頭から出てくる謎の優男から物語が始まるのも、面白い入り方でした。
> 「なるほど。勉強になるなぁ」なんて思いながら、最後まで読ませていただきました。
いきなり錠剤が手元にあるのも不自然なのであのシーンを挟みました。


> 全体的には、初めての短編とは思えないほど、構成の整った物語でした!
それは最上の褒め言葉です。

> もし一つ注文をつけるとしたら、
> 例の優男にもう少し活躍する機会を与えてほしかったです。
> 例えば、光樹くんが錠剤を探しに行った先で、
> 優男と主人公となんらかの取引をするとか、です。
ああ、確かに最初に出てきた以降は錠剤を取りに行く場面でも名前が出ただけですからね。
もう少し出番があってもよかったかもしれません。


> 最後の光樹くんの行った一言が気になります。
> 物語を終わらせないような余韻を残す終わり方で、
> 未だ物語が続くんじゃないかと思ってしまうほどです^^
余韻を残せてよかったと思います。


> 次回作楽しみにしています!
ありがとうございます。
短編はあまり執筆しないので、長編の方に目を通していただけたらな、と思います。

では、感想ありがとうございました。
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Author:栗栖紗那

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BirthDay:5/8
BloodType:O

趣味で物書きやってる元学生。
プログラミングもするけど、そこまでスキルがあるわけでもない。

普段はぐだぐだとくだらないことを考え、よく妄想の世界で遊んでいる。
基本的に脳みそお花畑な人間。




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