【小説】創作料理店のバレンタイン

    2015-02-28(Sat)

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今年も参加させて頂くのですが、応募の最終日になって、ようやく書き終えたという、ね……
しかも、時期を若干逃した季節もの。
こういうのは、もう少し事前に書き始めないと間に合いませんね。
ホントは、「Love Flavor」とか「まおー」のバージョンも書きたかったけどね。
まあ、季節ものはまた今度機会があったらということで。

今回は追記に小説本文をおいてありますので、読む方はそちらへ。

「お願いします!」

 料理店の青年に頭を下げて懇願する学生服姿の少女が一人。その様子を料理店の店員である少女が傍から眺めて、
「いいじゃん、引き受けちゃえば」

 などと安請け合いを提案する。
「そうはいくか。第一、ここは料理店であって、ケーキ屋でもなんでもないんだぞ」
「そこを何とか! せめて、レシピとかだけでも……」

 なにをそんなに必死になるのか。確かに、バレンタインは女子にとっても男子にとっても重要なイベントでもあるのは理解するが。

「…………」

 品定め、ではないが、少女を観察する。頭を下げて青年のような人物に頼みこまなければならないほど、色んな意味で困ってはいないようにも思える。だが、同時に切迫した雰囲気を感じるのも確かだ。
 だが、それは彼女自身の『焦り』のようだと思った。だから、諭す意味でももう一度断りを入れる。

「なんにせよ、俺が力を貸せることはない。菓子は専門外だからな」
「だからこそ、奇抜なアイディアを頂けるのではないかと」

 専門外故の奇抜さ、ね。だったら、

「猫の手でも借りたいなら、そこの招き猫的な奴にでも相談すればいい。そういう奇抜なのは得意だろ?」
「わたしのこと、なんだと思ってるのかしら。でもそうね……」

 奇抜さ、かと呟き、それからずかずかと厨房に上り込んでくる。なにかと思うと、食材のストッカーを開け、取り出したものは、

「カレールー、だと?」

 びっくり仰天どころの話じゃない。

「一見チョコレート、でもチョコじゃな――」
「やめろ!」

 手刀を首筋に一撃。恨みがましい目で抗議してくる少女を無視して、青年はカレールーをしまう。

「仕方あるまい、この暴走娘に任せるくらいなら、俺が引き受けたほうがマシだ」
「……ホントですか?」

 少女の奇行に目を丸くしていた女学生は、青年の言葉に我に返り、目を輝かす。
 青年は軽く頷き、

「だが、一日時間をくれ。そして、相手の好みを聞かないことにはわざわざオーダーを受ける意味がない」
「あ、そうですね」

 少女はいそいそと、そしてなぜか写真を取り出して上気した顔で語り出す。
 途中で止めるのも憚られ、結局30分近くにわたって片思いの彼についての話を聞かされた。
 だが、得られた情報は従兄で、現在大学生であることぐらい。この三十分はなんだったのかと思うが、過ぎてしまったものは致し方がない。

「だいたいわかった。準備がいるから、また明日のこの時間にきてくれ」
「はい、わかりました。よろしくお願いしますね!」

 女学生は深々とお辞儀して、店を去っていった。

「で、どうするのよ」
「なにが?」
「なにがって……作るんでしょ、チョコ」

 少女の質問の意図をわかっていなかったわけではないが、あえて教える必要もないと思っていた。

「今日はもう店じまいだ。帰っていいぞ」
「え、もう?」
「ああ」
「そ。じゃあ、厨房借りるわね」
「どうして?」
「わたしも作るからよ」

 少女の言葉に唖然とし、そして首を横に振る。

「やるなら家でやれよ。試食係はごめんだし、第一付き合ってる時間はない。これから出かけなきゃならんのだからな」
「残念ね……」

 そういう訳で今日は店じまい。

       ★

「失礼いたします」

 そう言って、昨日の女学生が店に入ってくる。ちなみに、今日はこの時間を彼女のために貸切にしている。ちなみに、少女には今日は店に来るなと言ってある。

「それで、状況はどうなってますでしょうか?」
「物は用意してある。だが、後は申し訳ないが君任せだ」
「私、ですか?」
「ああ。これは単純に渡せば終わりじゃないからな。だが、その分多少なりとも特別になるはずだ」
「そうですか。で、具体的には?」

 小首を傾げる女学生に、用意していた袋の中身を見せながら、

「結論から言うと、おうちデートだ」
「…………」

 ハードルが高かっただろうか。無言になる彼女に一抹の不安を覚えていると、

「いえ、いきなりデートなんて言葉が出て来たので、面食らっていただけです。しかし……」

 デートですか、と反芻する女学生。

「まあ、最初から最後まで家にいろなんて言わんが、最終的には家に呼んでもらわないと意味がないからな」
「そして、この品々ですることと言えば……」
「ありていに言えば、チョコフォンデュを作ろうってことだな。ありふれているかもしれないが、チョコを渡すだけでなく、時間を共有させることで得るものもあるはずだ。今回はそこに賭けてみたい」
「そう、ですね……確かに渡すだけでは、物を貰っておしまい。よくて、ホワイトデーのお返しがある程度でしょうか。でも、これならおっしゃる通り、思い出もできます」

 そして、肝心要のフォンデュするものを見せる。

「生のフルーツやマシュマロなんてものが定番だが、今回は少し大人な感じでドライフルーツでどうだろうか」
「あ、いいですね。ピールとチョコとかって合いますもんね。それに、彼も喜ぶような気がします!」

 一転して明るくなった彼女の表情に、青年も胸をなでおろす。

「すべてお任せするのは心苦しかったですが、最終的な部分は私の力でできるようにしてくださったこと、感謝します」
「ホント、少し無茶なプランかもしれないとは思ったけど、君がそう言ってくれてこちらも嬉しい」
「で、お代なんですけど……」

 おいくらでしょうか、と尋ねる彼女に、青年は、

「バレンタイン当日以降、君の好きな時に、君の満足度に見合った額を貰う。もちろん、納得しなければ、お代は結構」
「では、成功させなければいけませんね、絶対に」

 前向きな彼女の言葉に、青年が笑う。

「ありがとうございました」

 と、品を持って去って行く彼女に、青年は頑張れよ、と心の中でエールを送った。

       ★

 後日、バレンタインの次の日。
 二日酔いのようにガンガンと痛む頭と、不調を訴えるお腹、止まらない脂汗のトリプルパンチでグロッキーになっている青年を女学生が訪ねてきた。
 心配そうに、何事かと聞いてくる彼女に、青年はちらりと視線を店員の少女に向ける。少女は素知らぬ顔で洗い物をしている。
 少女の味音痴そのものは知らないだろうが、なんとなく事情は察したようで、

「ご愁傷様です」

 と小声で。そして、

「これ、お代です。ここに置いときますね」
「ああ」

 彼女の満足げな顔を見れば、渡された額の大小など些事だな、と頭痛に苛まれながらも思う。

「では、お大事に。そして、ありがとうございました」

 そう言って去って行く彼女の背中を、青年は微笑ましく思いながら見送った。

 しかし、他人の力を借りてでも、美味しく、楽しい時間を過ごせただろう彼女に対し、自らは少女による暴力的な『チョコレートのような形状をしたナニカ』を食べさせられた青年は、心の中で理不尽だと思わなくもなかった。
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コメント

あらららら

こんばんは。

旅行から、無事帰って来ました。
どこかで読んだ二人だと思ったら『創作料理店のとある一日』の二人ですね。折角のお料理に、ソースをかけちゃった(笑)
招き猫とかいっていますが、看板娘として大事にしていたんですよね。

そして、今回は、ヴァレンタイン・デーで、本当なら意中の彼女から本命チョコを貰えて嬉しいはずなのが……あらあらあら。食べないって選択肢はなかったんでしょうね。

親切にお客さんの恋の後押しはしてあげたのに、なんだか散々な日になっちゃったようで……でも笑える。

素敵な作品でご参加いただきありがとうございます。
お返し、考えますので、少々お時間をくださいませ。

Re: あらららら[八少女 夕さんへ]

こんばんは。

お帰りなさい。楽しんでこられたでしょうか?

思い出していただけたようで嬉しいです。
そう、あの味音痴の少女と店主の青年です。
まあ、味覚以外に関してはそれなりに役に立っているようで、一応看板娘として機能しているようです。

青年に関して言えば、身近にいる異性が例の少女ですからね。
本人もあまり期待していないですが、今回はなんともいえないバレンタインになったようです。
どうやら、せまい店内で追い詰められては食べないという選択肢はなかったようです。南無三……

笑って頂けたようで、何よりです。

お返しは『オフ会』の企画もありますので、夕さんのご都合のよろしいときに。
楽しみに待たさせて頂きますね。

コメントありがとうございました。
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