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鮮華伝(仮)part4

    2012-02-08(Wed)

こんばんは。

時間があったので、鮮華伝の更新できるぐらいには書き進められました。

いよいよ主役の登場です。
「礫地帯みたいっすね」
 軽い口調で言う蒼刑に視線を向け、
「回避できないか?」
「できないってこたぁないすけど……」
 彼は眉を寄せて一度視線を地図に落とし、
「そんなことしてら、見失っちまいますよ」
「そうか。では、馬の脚に注意してもらうしかないな」


 その話を間で訊いていた鈴はすぐにその内容を後続へと伝えていく。騎馬隊の隊長だけあって、馬の扱いは素直に賞賛に値するが、今は悠長なことをしている場合ではない。一刻も早く李庵の地に向かい、可能であるならその地を救わなければならない。
 馬を駆り、一刻と少しを行き、少しの休息で馬を休ませ、また長い距離を駆ける。馬の疲労は勿論だが、その乗り手の消耗も馬鹿にならない。


 焦りが産む汗が掌を濡らし、手綱を持つ手を滑らせる。いくら鞍を置いていても、動く馬上では体勢を整え続けるのは流石に辛い。
 そうして更に二刻を行き、休息の頃には中天にあった陽が西に傾いたころ、ようやく集落の影を捉えた。
「蒼刑、あれか?」
 問うと、無言で頷き、彼は目を細めて遠方を見る。
「っ! この臭いは――」
 風が向かい風に変わり、その中に混じる嗅ぎ慣れた、しかし、決して慣れたくない臭いが鼻腔をかすめる。そう、まぎれもない血の生臭くも鉄錆のような臭い。


 合図をするまでもなく、馬軍はさらに速度を上げた。
 しかし、視覚と嗅覚が一致しない。
「火がない。不自然ね」
 鈴の言う通りだ。紅紗のような野盗なら、邑に火をかけ、人を炙り出すのが常套なのに、だ。
 違和感を心に抱いたまま、四半刻もしないうちに白扇たちは李庵の地に辿り着いた。


 白扇は馬に乗ったまま、李庵を囲む簡易な柵へと足を向ける。そこに在ったのは、裕福ではないものの、いたって普通の小邑の姿。略奪の後はおろか、野盗が訪れた気配すらない。突然現れた馬軍に驚いて、警戒をする様子はあるが、それ以外は普通だ。
 白扇は血の匂いが未だ漂っていることを確認しながら、慎重に馬を降り、辺りを探る。
 蒼刑は耳を澄まし、周囲の音を探っているようだが、伏兵のようなものはいないらしく、頭を振った。
「どういうことだ?」
 背後に歩み寄ってきた駕刻に問うが、彼も困惑を隠しきれず、
「わかりませぬ。ただ、血の臭いがあることは確か」


 鮮華の人員も少し足を伸ばして周囲を見て回るが、この周辺を馬が通った形跡はない。普通に考えれば迂回した、と思うべきなのだろうが、それにしては血の臭いが濃すぎる。
「駕刻、あの岩の方へ行ってみよう。丈もあるし、周囲を探るのにはいいだろう」
「わかった。蒼刑、お前も来い。佐料殿はこの周辺の警護を」
「あいよ」
「わかったわ」
 それぞれに返答が返り、白扇は改めて馬にまたがる。目的は李庵の入り口から少し離れたところにある巨岩だ。


 馬にこれ以上無理をさせるのは帰りに響くので、並足で行く。
 近付くにつれ、血の臭いが濃くなっていることに気が付き、速度を落として警戒する。
 駕刻も無言で矛を抜き放ち、周囲を警戒する。
「蒼刑?」
 蒼刑の耳が何かを捉えたらしく、彼の視線が突如跳ね上がる。
「いる」
 つられて白扇が巨岩の上を見ると、そこには確かに誰かがいた。


 西日に照らされた人影はゆるりと立ち上がると、顔を隠していた比礼のような長い布を外し、鋭い目で白扇たちを見下ろした。
「随分と遅かったな。おかげで待ちくたびれた」
 不遜に言い放ち、岩の隙間に刺していた鞘入りの剣を引き抜き、無造作に飛び下りて来た。十尺以上は優にあった筈だが、着地の際になった音はごく小さく、立ち上がるその姿は軽やかだ。


「義勇軍鮮華の盟主、児辰白扇はお前で間違いないか?」
 ずいと剣を突き出し、まっすぐに白扇を指し示す。
「そうだ。私が白扇だ。貴殿は……?」
 この男は明らかに白扇たちを待っていた。
「俺か? 俺は応唯(おうい)錬清(れんしん)。ただの風来坊だよ」
「応唯、錬清」
 名を口の中で反芻する。聞き覚えはない。それなりの武芸者なら、例え風来坊であっても名は知れている筈だ。改めて容姿を見る。黒ずんだ比礼を肩に掛け、纏った衣服は薄汚れているが、元々の仕立ては悪くないようで、ほつれはほとんど見られない。得意なのはその髪と瞳の色か。老翁のごとき白い髪と翠玉をはめ込んだような緑の瞳。ひと言で言えば異貌。だが、不思議と違和感を感じない。


「さて、白扇」
 錬清は剣を肩に負い、ゆったりと歩き始める。白扇はその姿を目で追う。
「俺がいなかったら、李庵の邑はどうなってたと思う?」
「どう、とは?」
 心当たりは十分にあったが、こちらが手札を出すこともない。そう判断して、白扇は惚けて見せた。錬清はしばらく白扇の顔を見つめていたが、
「紅紗は李篭を襲った後、進路を西に取った。そして、李篭の西にあったのがここ李庵の邑だ。お前らだって、その情報が入ったからここに来たんだろ?」


「…………」
 無言を送る。彼は白髪を掻くと、
「だんまりか。まあ、それでもいいが、多少は手札を見せないと交渉ってのは出来ないんだぜ?」
「交渉? 貴殿と何を交渉することがある」
「あるさ。さしあたっては李庵の安全。場合によっては李州の治安にも関わるな」
 その物言いに、白扇は彼の正体を推測した。紅紗の手の者か。だとしたら、話の辻褄が合う。つまり、邪魔な鮮華を排除するためにここにおびき寄せた。こちらの出方次第では、李庵やその他の邑を襲うと暗に言っているのだ。


 白扇は警戒を強め、駕刻に目で合図を送る。彼もこの男には警戒心を抱いているし、ほぼ同じ結論に至っているだろう。
 駕刻が白扇と錬清の間に割って入る。それも、武器を構えて。
「いいのか、俺を脅しても? どうなっても知らないぞ?」
「野党の話など聞く価値もない。ここで貴様は黙らせればいいだけの話」


 鋭くにらむと、錬清は肩を竦め、
「こんなのが本当に救ってくれるのか? ただの阿呆じゃないか」
 訳の分からない呟きを漏らしている。だが、もはや訊く意味もない。もう一度駕刻に合図を送ると、一つ頷きが返り、
「せいっ!」
 長大な矛がほとんど前動作なしで錬清に突き込まれた。手練れならこれでやられることはないが、距離は取れる。そう思っていたのだが。
「とめ、た……?」


 渾身の一撃という訳ではないが、駕刻の力は相当なもので、小岩なら軽々と砕いて見せるというのに、錬清は肩に負っていた剣の鞘で矛の一撃を止めていた。
「力任せ、という訳でもないみたいだが……それでも力に頼りすぎ、だな」
 最後の言葉と同時に剣が動き、矛に絡みついたように見えた。実際は滑らかな動きで矛の動きを上から抑え込んだのだが、一瞬固い筈の剣が蛇のようなしなやかさを得たかのような滑らかさ。


 只者ではない。そう実感した途端、悪寒が襲う。万が一にも駕刻が遅れをとるとは思えないが、代償なしに討って取れる相手ではなさそうだ。その証拠に、蒼刑も腰から短刀を抜き、臨戦態勢に入っている。
「兄者、お下がりを」
「わかった」
 大人しく後ろに下がり、自身も腰から剣を抜く。重いものは扱えないので、細身のものだが、技量にはそこそこ自信がある。
「勘違いもほどほどにしとかないとさ――」
 矛を抑えていた剣をどかし、後ろに半歩下がる。
「余計な手間かかるだけだって」
 柄に手がかかり、一瞬で鞘走る。


 現れた刀身は黒一色。刃の部分ですら黒い、あり得ない色の刀剣。
「まあ折角だし、味見とするか」
 錬清の顔に獰猛な笑みが浮かんだ。
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