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アリアドネの憂鬱 後編

    2013-05-20(Mon)

こんばんは。

同じく前書きなし。

以上。










 最終日。バス移動になり、窓際の席に一人で座っていると、阿澄がいきなりやってきて腰を下ろした。

「あのさ……」
「なんだ?」
「ワタシの恋愛、手伝ってくれてたでしょ? だから、お礼言おうと思って」

「俺はそんなこと知らんな」
「ウソ。だって、一昨日の夜の声、アンタのだったもん」

 なんだ、バレたのか。

「礼なら音取に言えよ。俺はどちらかというと音取を手伝ったにすぎん。正直、お前たちがどうなろうと俺の関与することじゃない」
「そ。じゃあ、やっぱりアンタにはお礼言わない」
「そうしとけ」

 俺はそれきり黙り込んで、窓の外を眺めた。阿澄もそのまま去るかと思えば、なぜだか居続けてるし。

「ねえ」
「なに?」
「アンタってさ、アリアさんのことどう思ってるの?」

「藪から棒だな。なんだ、いきなり?」
「いきなりかな? いや、ちょっと気になってね」

 俺がアイツをどう思ってるか、か。そうだな。他人ではないな、一応。友人? それが一番近いか。まかり間違っても恋人じゃない。

「友人、だろうな」
「……そっか。でも、嫌いじゃないでしょ?」
「嫌いだったら手伝うかよ」
「それを聞いて安心した」

 にこりと笑うと、阿澄は揺れる車内を怪しい足取りで自分の席に戻っていく。一体、なんだというのだろうか。まあ、どうでもいいか。

 三日目は小樽での自由行動。とはいえ、時間的に範囲はそんなに広く取れないので、多くの人がオルゴール堂周辺に集まる。半ば、班分けすら意味をなさなくなっている。

 そんな中、音取は俺から距離を置き、しかし、なぜか視線はチラチラと向けてくる。その上、小さい溜息を何度も。

「…………」

 不快にさせるようなことや、怒らせるようなことをした覚えはないが、自覚なしに怒らせる場合だってあるだろう。

 ガラス工芸の小物を見ていたとき、ふと一つのものが目にとまった。青と透明なガラスで作られた小さな髪留め。

「…………」

 そういえば、どうして俺は音取の相談に乗ったのだろうか。まあ、気晴らしというか、暇つぶしだったのも確かだろうが。だが、自分自身で認識する限り、俺はめんどくさいことが嫌いだ。

 しかし、あの時は自然に、そう、ごく自然に彼女の手助けをしてもいいと思えたんだ。

「なんなんだろうな」

 阿澄の言葉に翻弄されているようだ。しかし、彼女だって意味もなく俺にあんな問いかけをしないだろう。彼女自身、あんなにも悩んでいた事柄に関して――
 ああ、ダメだな。これこそ吊り橋効果みたいなやつじゃないのか? だけど、なぜだか、心の奥底にすとんと収まるんだ。燃え上がるようなやつじゃなくて、心の中でじわりと熱を持つ想い。

「これ、ください」

 店員に商品を渡して購入。迷うことはなかった。

 いつ渡すかは決めてない。でも、絶対に渡すだろう。

 帰りの飛行機。雪緒と阿澄の様子を目に映しながらも、たえず音取からの視線も感じていた。空港での解散だったが、俺は雪緒にだけ別れを告げ、その場を後にした。

 数日後。俺は再び保健室に来ていた。先生の姿はなく、グラウンドには部活動に励む生徒たちの姿。

「…………」

 手のひらにすっぽりと収まるほどの小さな装身具。それを意識して、鼓動が早まる。

 ちょっと、早まったかな。でも、修学旅行から帰ってきて以来、音取の笑顔を見ていない。それがたまらなく心を落ち着かなくさせていた。もしかしたら、俺がどうこうできる問題じゃないのかもしれないし、これが彼女をさらに困らせることにもなるかもしれない。

 だけど、けじめは付けよう。

 喧騒未満、静寂以上の音を切り裂くような一つの足音。そして、扉が開かれるカラカラという音。

 振り向いたそこに彼女はいた。憂いと不安と、そして、俺の勘違いでなければ、少しばかりの期待とを入り混じった瞳。肩口で切り揃えられた艶やかな黒髪。俺の心臓がとくんと跳ねた。

「音取」

 呼ぶと、彼女の方が強ばった。俺は構わずもう一度、

「音取」

 呼んで、彼女の方へと近づく。距離、五十センチ。彼女は俺の顔を見ず、俯いていた。

「…………」

 無言。

 俺は意を決して、髪留めを握った手を持ち上げる。小さい、でも重い。そこには感情が込められているから。想いを託しているから。

 すっと、髪留めを彼女の綺麗な前髪に付ける。

「なあ、音取。俺はお前のことが好きだ。理由なんか知らない。でも、好きなんだ」
「…………」

 無言。だが、微かな息遣いがあり、そして彼女は、

「っ!?」

 俺の体へともたれ掛かった。

「ずるいよ」

 背中に回される腕。

「私も、好き。理由なんか、知らないよ。好きだから、好き」
「ああ、なんだ……同じ気持ちでいてくれたのか。ああ、俺もお前が好きだ。アリア」

 初めて呼んだ彼女の名前。

「偵……好き。あと、これ、ありがとう」

 俺から体を離し、そっと髪留めに手をやる。

「似合ってる?」
「俺が選んだんだ。似合わなかったらおかしい」
「ふふ、なにそれ……でも、偵らしいな」

 並んで手をつなぐ。

「帰ろっ」

 弾んだ声に、俺は微笑んだ。
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コメント

No title

ハッピーエンド!
って、このテイストでそうじゃなかったら困りますけれど、でも嬉しい。

紗那さんのストーリーの明るい楽しさはいいですね。このぐらいの歳の頃って、本当に告白一つで世界が終わるかのごとく大騒ぎしていたし、そのくらい重要だったんだけれど、あまりにも昔の事で、つい忘れがち。あの甘酸っぱい感覚が鮮やかに戻ってくるテイストなのですよね。

人のキューピットだけじゃなくて、ちゃんとアリアの恋が実ったのが嬉しいです。

さ、私も書かなきゃ。えらくテイスト違うものになりそうだけど……。

八少女 夕さんへ

こんにちは。

このテイストでバッドエンドだったら、ボクはきっと泣きますよー。
でも、嬉しいと言ってくださってありがとうございます。

本当に、中高生は恋愛ごととか、人生を左右する一大事に思っているような時期ですからね。まあ、実際にそういう場合もあるので馬鹿にできないですが。
ちなみに、主人公の語りで物語が進むので、この部分を如何に明るく楽しくするか、が問題でした。
『Love Flavor』の一物語として扱ってもいいかな……もともと、アレはそういう恋愛モノを集めたシリーズの予定でしたし。

持ちつ持たれつ。最終的にアリアと主人公が結びつくきっかけとなったのは阿澄さん、こと昭穂の言葉あってこそです。
恋愛の動機は物語としては弱いかもしれませんが、現実は一種そんなものじゃないかな、とも思ったり思わなかったり。

夕さんがどれを選ぶかも気になりますが、気長にお待ちしています。

こんばんは

Stella発刊に合わせて、読みに来ました。
まあ、今更感いっぱいですが(笑)

舞台となった初夏の北海道のように、爽やかな青春小説ですね。
友人の恋を取り持つうちに、自分たちの恋も芽生えて行く。こういうお話は、読んでいて楽しかったし、ちょっと(?)昔を思い出して、甘酸っぱい感慨に浸りました。
大人になってしまうと、「理由もなく」人を好きになることが難しくなります。はあ、イヤだなぁ(笑)
たった二日で、これを書き上げられた創作力に脱帽です。

Re: こんばんは[TOM-Fさんへ]

こんばんは。

いえいえ、いまさらだなんて! 読んでくださるだけで舞い上がりますから。

甘酸っぱい青春小説仕立てです(笑)。そう感じていただけたのなら幸いです。

ある意味些細で、でもその人にとっては意外に大きな悩み。恋愛もそうですね。そんな時のお助け役。しかし、その少女も実は悩んでいて……
ベースラインはそういうもので行こう、とすぐ決めましたし、話の立て方ももの凄く単純なものだったのでこの期間で書けたのですよ。

大人になるにつれて、交際の持つ意味が大きくなってしまいますからね。
それはいささか仕方がないことなのかもしれません。それでも、純粋な気持ちを失いたくはないですが……

コメントありがとうございました。
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