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『まおー』 第3話

    2012-10-22(Mon)

stella【小説・掌編】

こんばんは。

もうめんどい……ということで、Stella用のやつですが先行して投下。
絵も描く予定だしいいよね!?
ということで、本文はいつもの通り追記から。
今回はギャグ少なめかもです……

・前までの話
1話
2話






 至近だったとはいえ、よけられない距離ではなかった。しかし、厳然として頬は擦過により赤くなり、ヒリヒリと痛む。

 その傷を作った張本人はというと、不遜な態度で俺の前方を闊歩している。ちなみに、落下から助けた礼はなかった。

「おい」

 声をかけたが返事はない。

「…………」

 少し考え、

「貧――」

 言い切る前に拳が襲いかかってきた。なるほど、そういう単語には敏感なようだ。てか、気にしすぎな感もあるが。

「危ない危ない」
「ちっとも危くなさそうだが?」

 彼女の言うとおり、別に危うくもなかった。距離は十二分にあったし、速度は優に認識できるもの。避けるのはたやすい。

 片角の彼女は首を傾げながら拳を引き、それからあたりを見回す。

「ここは島なのだな?」
「ん? ああ、そうだな。それが?」
「別にどうということもないが。しかし、この広さの島にしては栄えていると思ってな」

 確かに、彼女の言うことにも一理ある。島の中心から各沿岸に到達するのに徒歩で約一時間。つまり、面積にすればおよそ48km2。狭いということもないが、決して広くもない島だ。王城を中心とした首都の他、沿岸や平野部にはいくつかの大小様々な集落が存在する。だが、彼女が言いたいのは今現在立っているこの首都についての話だろう。

「このイースアイランドは大陸にある王国の属国だからな。資源や技術はそっち頼りだよ」
「ああ、そういうことか」

 道理で、と彼女は納得の色を見せ、視線を商家に向ける。

「だが、食料はほぼ自給のようだな?」
「そりゃあな……日持ちのする干し肉とかならともかく、果実や生肉は船で運ぶあいだに腐っちまう。だから、肉は自分たちで育て、果物も農園を作って採集してる」
「平和だな」

 東の大陸から吹いてくる風が少女の髪を暴れさせ、その表情を隠す。

「ここは、と言うべきだろうけどな」

 俺は視線を見えぬ大陸に向け、吐き捨てる。戦争は厳然として存在する。この島まで届いていないだけだ。平和を歌うために作られたような、箱庭。それがイースアイランド。

「勇者がいたって、平和なんか作れっこない」

 俺のつぶやきを聞いてかは知らないが、

「まあ、あんな斬新な姿をした勇者は平和の象徴になる訳もないな」

 向けた人差し指は首都の広場に設置された勇者像を指す。その像はほかでもなく俺が首をもいだもので、その首はというと、

「剣の先に己の首を掲げるなんて、なんのつもりだ? 自己犠牲の象徴か?」
「きっとそういうことじゃないのか? 勇者は身を粉にして人に尽くした。だから、大衆にもその精神を見習って欲しいんだろ」
「……勇者がそんな精神でいいのか」

 俺の内心は露知らず、少女は半目になる。まあ、押し付けがましい勇者というのもいただけないのはよくわかる。

「さて、少し歩いて疲れた。お前の家でいいから案内しろ」
「さてもなにも、そんなことしてやる理由が見当たらない」
「い・い・か・ら」

 一音一音区切って言いながら、詰め寄ってくる。手のひらにはなぜか炎が灯ってるし、逆らわない方が身のためなのかもしれない。それに、こいつには何を言っても無駄な気がする。

 というわけで、家に連れて来た途端、いや、正確に言うと俺の親父の顔を見た途端意気消沈し、すぐさま引き返そうとする少女。

「おいこら、人様の親の顔見て引き返すやつがどこにある?」
「ここにある!」

 逃げようとする彼女の首根っこを掴み、家に引きずり込む。

「まったく、暴れるなよ……」

 凄まじい力で抵抗されたが、むりやり椅子に押し込めると流石に観念したのか大人しくなる。その間、親父殿は黙々と茶の準備をしていた。なんともマイペースなお人である。

「…………」

 無言で茶が差し出される。普段からほとんど喋らない人だから俺はその態度に慣れていたが、少女の方はそうではなく、そわそわしていた。

 俺は少女の向かいに腰掛け、茶を一口。親父は一度だけ視線を俺たちに向けたあと、無言で奥へと引っ込んだ。

「で、いきなりどうしたよ?」
「なんでもない」
「へいへい、そうですか。まあ、それよりも先に聞くことあったな。お前、名前はなんていうんだ?」
「ふん、ボクに名前を聞くなんて、随分と大きく出たものだな。普通ならお目にかかることもなかっただろう相手だぞ?」

 急に得意げになった少女。俺は若干面倒くさくなって、

「いや、言いたくないならいいや」
「なん……だと?」

 なんでそこまで驚く?
「言いたいなら言いなさい。お兄さんは待ってるから」
「いちいちしゃくにさわる男だな、お前は。まあいい、尊大なボクは教えてやることにした」

 椅子を蹴立てるようにして立ち上がり、ない胸を逸らす。ああ、平らだ。

「平らだ……」
「ふんッ――」

 茶に添えてあった鉄製のスプーンが飛んできた。が、俺はそれを揃いのスプーンで弾き飛ばす。

「おっかないなぁ」
「まったく、血は争えないというべきかなんというか……」

 少女は愚痴りながら再び席に着いた。

「いきなりなんだったんだ?」
「お前が失礼なこと言うからだろう」
「失礼なこと? ああ、たい――!?」

 テーブルの下ですねを蹴られた。これは流石に痛い。少々涙目になりながら抗議の視線を送ると、勝ち誇ったような笑みを返された。

「というか、そろそろ本当に名乗りたいんだが?」
「ぅぐ……勝手に名乗ればいいじゃないか。そうじゃないとムネタイラって呼ぶからな」
「巫山戯るな」

 恐ろしく低い声で恫喝すると、一度咳払いして、

「ボクの名前はデルフィアだ。種族は見ての通り魔族。だが、そんじょそこらの魔族と一緒にするなよ。なんて言ったって、ボクは魔王なのだからな」
「へー」

 まあ、名前以外に関してはある程度予測できていたので驚きはない。が、俺の態度がお気に召さなかったらしい。デルフィア――いや、長いからフィアと呼ぼう――はこめかみに青筋を浮かべて指を鳴らしている。

「人に名乗らせておいてその態度は流石にな……寛大なボクも堪忍袋の緒が切れるといったもので」

 拳に炎が灯り――

「おかわりだ」

 横からぬっと現れた親父が何も見えてないかのように俺の器に茶を注ぎ足す。

 フィアは気勢を削がれてか、拳から炎を消し、親父から目を逸らす。そんなに怖いかな?
 まあ、筋肉質な体型と顔を覆う濃いヒゲ。総合してみれば熊にも似た姿だが、別に人を取って食うようなことは決してない。

「久しいな」

 親父は確かにフィアを見据えてそう言った。知り合いだったのか? それは流石に知らなかった。

「殺した相手に久しいもなにもないだろう。なあ、英雄グレン?」

 皮肉そうに頬を歪め、フィアは親父を英雄と呼んだ。どうやら俺の知らぬ過去に因縁があったらしいのだが――
 俺の感想はただ一つ。



 どうやら世間は思ったよりも狭いらしい。
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まとめ【『まおー』 第3話】

【小説・掌編】こんばんは。もうめんどい……ということで、Stella用のやつですが先行して投下。絵も描く

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コメント

No title

お。オヤジ好みの私のツボをつく新キャラが登場ですね。
魔王だけれど、威厳の全くなくてとてもかわいいデルフィアと実はけっこう出来る男「俺」のコントみたいな掛け合いが楽しいです。
単純に楽しむ一読者になって読んでいます。
次回への引っ張り方もいいですね。こうやって切ると、次がまた読みたいくなるんですね。
勉強になります。

八少女 夕さんへ

こんにちは。

「俺」ことクレアの父は結構初期段階から登場予定でした。
まあ、クレアの身体能力の裏付けとかそのへんのため、と言ってしまえばそれまでですが。
しかし、夕さんがオヤジ好みだったとは(笑)

まあ、クレアくんももともと勇者を目指せるだけの身体能力その他があったわけですからね。
デルフィアはすっかり威厳がなくなって、彼女からすれば一市民に過ぎないはずのクレアからの扱いが低いことに若干凹み中。

会話は基本的にコント調で行こうと思ってます。
但し、全体の流れは損なわない範囲で、ですけどね。
やはり、物書きさんが小説を読むと視点がそういった感じのものになってしまいますからね。
一読者として楽しんでいただけたなら幸いです。

引きの部分は『まお-』がストーリー押しの物語ではないので、こういった部分を作らないと先に対する期待が薄くなってしまうと感じてこうしました。

感想ありがとうございました。

No title

 こんばんは。
会話のテンポ いいですね とても読みやすいです。
オヤジ 面白そうな人物ですね。
魔王とどのように 絡んでくるのか楽しみです。

それにしても そうかぁ… 皆さん 色々と考えて 作品作られているのですね…
何も考えずに 書きたいように好き勝手やっている僕って… 
とりあえず ファンタジーでラノベぽくって 栗栖さんの文章の魅力がよく出ている 作品だと 感じました。

No title

コント調が見事ハマってますね。
魔王だ、と言ってんのに返しが「へー」は新鮮すぎるww

僧侶とか出てくるんじゃないかと勝手に期待しながら、次を待ちます(笑)

ウゾさんへ

こんばんは。

会話のテンポいいですか? それはよかったです。
親父は……まあ、個性的な人物であることにまちがいはないでしょう。
現在のところ唯一魔王のことをきちんと知ってる人物ですから(魔族は除く)。

考えてるといっても、そうなにたいそうなことを考えてるわけでもないですよ、ボクの場合は。
会話文と地の文の割合とかは多少気にしますけどね。
後はやはりコメディだと引きが大事かな、と。まあ、コメディに限らないんでしょうけど……
これからも“らしい”物語を作っていきたいですね。

コメントありがとうございました。

晩冬さんへ

こんばんは。

ハマってますか? それは一安心です。
まあ、クレア君は一種の変人ですから、通常の返答は期待しない方がいいでしょうね。
魔王様は魔王様で、そこに過剰に反応するからやりとりが盛り上がる、といったところでしょうか。

僧侶か……それ単品は考えてなかったですけど、そのうち勇者パーティを出す予定だったので、そこの時に少し考えてみます。

コメントありがとうございました。

No title

こんばんは。
ご参加ありがとうございますm(__)m

このタイミング……だと……!?
絵も描いてくれすのですか!
うは←

まおー凄く面白いです!!
今から続きが楽しみです←
テンポが凄くいいですね^^
親父さんん
うは///
良いですね!

なんかテンション上がってきました←
変なこと吐かないうちに去ります(゜-゜)

スカイさんへ

こんにちは。
いえいえ、こちらこそ、素敵な企画ありがとうございます。
今回も懲りずに参加させていただきます。

若干早いかな、と思ったけどネタがなかったので急遽書き上げました。
そしてそのままアップ……
絵も描く予定ですが、実際のところどうなるかわかりません。
もしかしたら、そんな予定なかったことになるかもしれませんので、期待はしないでください。

『まおー』面白いですか? そう言ってくださってありがとうございます。
続きはまた来月……とかならないといいんですけどね。
今回がまさしくそのパターンだった……
親父はいろいろ濃い人です。だからこそ、クレアくんがあんな風に育ったわけですけど。

変なこと吐いてもいいんですよ?

コメントありがとうございました。

No title

おっ!早いですね。フライングOKですね?
山西も1つは出来上がったので明日にでもUPしてしまう予定です。
デルフィアはとても可愛いですね。魔王なのにそういう印象です。
クレアとのコンビはとても面白いです。この2人をどう動かしていくのか興味深いです。
でも、今は親父、このキャラに限ります。
フィアのオドオドした態度がこの静かな親父「勇者グレン」の実力を想像させます。
楽しみに次を待ちます。

山西 左紀さんへ

こんばんは。

ものすごくフライングしました。
大丈夫だよね!? まあ、スカイさんもなにも言わなかったので良しとします。
山西さんのも期待してますね!

デルフィアはおそらくそういう印象が強くなるんでしょうね。親父やクレアのせいで威厳がまるでないですし……
クレアの一般人とはずれた感覚とムキになる魔王。この位置関係を基本にして動かしていこうと思います。
親父は……それこそ過去話を盛大に語れるぐらいの経歴はあるでしょうね……語るかどうかは展開次第ですが、じゃっかん重くなりそうなので恐らくは語っても番外編でしょう。
勇者と魔王の関係ですからね。そして、一旦フィアが眠りについたということは……です。
お楽しみにしていてくださると執筆のモチベーションも上がるというものです。

コメントありがとうございました。

感想

 感想です。
 クレア君と魔王の威厳がまるでないフィアさんのやり取りが面白いですね。テンポ良く進んでいく中に、いくつか気になる言葉も出てきていて、続きが気になります。親父さんもいいキャラクターをしていますね。これからも、執筆頑張ってください。

誤字?
平和を歌うために作られたような、箱庭。

Re: 感想[夕月望さんへ]

こんばんは。

感想ありがとうございます。
コメディなので、あまり伏線みたいなのを張るものどうかな、と思ったのですが……続きが気になってくれているようでしたら、うまく機能してくれたのかな。
やりとりはなるべく面白くしたつもりです。面白いと言ってくださったなら一安心ですね。
親父はこれからもいい味出してもらいたいと思ってます。
執筆、滞らないようにしたいと思います。

これは誤字ではないですね。
指摘してくださって申し訳ないのですが……><

コメントありがとうございました。

はじめまして、高橋です。

栗栖さんこんにちは。
先月のStella、コメントありがとうございました。
高橋も感想をお書きしようとおもっていたのですが、大変遅くなってしまいましたので、先月のStellaの分と合わせて書かせていただきます。
1~3、一気にまとめて読ませていただきました。
うん、楽しいです。
サクサク読めるのって凄い。
思わず声に出して笑った部分も。
世界観もしっかりされているし、キャラがいいですね。
3、ってことは続編お待ちしています。
みなさんと被るかもしれませんが、親父様…うふふ。

楽しいお話をありがとうございました。
高橋月子

Re: はじめまして、高橋です。[高橋月子さんへ]

こんばんは、高橋月子さん。

こちらこそ、楽しいお話ありがとうございました。
そして、読んでいただきありがとうございます。

おお、楽しいですか?
あんまり考えずに読めるものを目指したので、そういう意味では成功だったようですね。
あちこちにネタや笑いどころは用意しましたが、声を出して笑っていただけるほどとは書いた本人もびっくりです。うん、でもよかった……
世界観は書きつつ外堀を埋めているのが現状なので、そのうちボロが出るかも……><;
キャラはとりあえず濃いめのものを配置してます。まあ、配置してると言っても、結構勝手に動くので楽ですが。
続編はひと月以内には出したいと考えてますので、読んでいただけると嬉しいです。
そして、なぜか皆さんに人気の“親父”さん。なぜだ……?

こちらこそ、感想ありがとうございました。
ボクも2号用に執筆された作品に速いうちに目を通して感想を書こうと思います。
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