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鮮華伝part9

    2012-05-06(Sun)

久々の更新!

一か月サボってたのって小説家志望としてどうなの? と自分を殴りたい。

というわけで、続きからどうぞ。





 翌日、作戦は朝一番で修刑と蒼刑が宿泊している宿屋へ向かったが、そこには寝台に寝転がり、地図を眺めている蒼刑しかいなかった。

「修刑は?」
「兄貴なら応唯のやつに連れてかれちまいやしたよ」
「そう、か……」

 随分と行動が早いものだ。

「白扇様はあいつを信用するつもりですか?」

 そう問われ、迷いつつも、

「祁州が後ろ盾になっているのが本当なら、疑っても仕方がないのだろうな」
「……まあ、そっすね。しかし、紅紗の連中がいなくなったと思ったら、今度は邑絡みででかいことが起きそうっすね」
「全くだ。しかも、紅紗の捕縛にはほとんど関われていないのだからな……」

 応唯錬清とその仲間。そして、後ろ盾となっている祁。どれだけの規模で事が動き出そうとしているのか、全くわからない。しかし、一度祁に足を運んでみるだけの価値はあるだろう。

「私は街に出るが、お前はどうする?」
「いや、俺はいいっすよ。ここで地図見てます」
「そうか」

 彼に別れを告げ、通りに出る。

 まだ時間も早いが、朝市が賑わっているのがよくわかる。活気のある邑だ。

 特に目的もなかったが、朝市を見て回るのもいいかもしれない。そう思い、賑わう街の一角へと足を進めた。

 近づくにつれ、熟れた果実の匂いや新鮮な野菜の瑞々しい香りが満ちているのがわかる。呼子の威勢のいい声や、店主と値切り交渉をする旅の商人の熱心な声。また、この邑に住まう一般人の世間話。

 雑多だが、愛すべき平和の象徴的な風景だった。

 商品に目を奪われつつ、人にぶつからないように最低限の注意を払いながら歩いていると、なにやら視線を感じる。

 何事かと目を周囲の人々に向けると、多くの者がこちらに視線を向け、何事かを話し合っている。その声に耳を澄ませてみると、

「もしかして、あの人が鮮華の――」「そうだ。かなりの美形だって聞いたぜ」「まあ、なんて凛々しい」「あの人たちが紅紗を懲らしめたんだろ」

 と、鮮華や自分に関わる話をしているのがわかり、思わず頬が赤くなった。

「ねぇねぇ、おにぃちゃん」

 幼い声がして、足元に視線を転ずると、声の通りまだ幼い少女が天真爛漫な笑みを浮かべ、何かを差し出した。

「これあげる」
「これを、私に?」

 差し出されたのは大ぶりの果実で、見ただけでもその瑞々しさは伝わってくる。

 少女はこくりと頷き、つま先立ちになってさらに果物を差し出してくる。

 白扇は膝をついて少女と目線を合わせ、その頭を撫でる。彼女はくすぐったそうにして、それから、

「これ、おっとさんがね、おにぃちゃんにあげろって」
「お父さんが?」

 少女が指さす方に目を向けると、がたいのいい男が親指を立てて見せた。白扇は軽く頭を下げ、彼の好意に甘えることにした。

 熟れた果実を受け取り、空いた手でもう一度少女の髪を撫でる。

「ありがとう」
「うん! おにぃちゃんもがんばって!」

 はしゃいだ声でそう言い、父のもとへと駆け戻る。その足にしがみつくと、ものすごく嬉しそうに笑い、白扇が手を振ると、元気よく手を振りかえしてくれた。

 いい邑だ。活気があり、人々の顔にも幸福がある。自分だけの力ではないが、この邑が紅紗の手にかかることがなくて本当に良かったと思う。

 しかし、随分と噂が広まるのが早い。それに顔も知られているようだ。

 そのことを疑問にも思ったが、案外人の噂というものは広がるのが早いものだ。昨日、李庵から戻り、紅紗の連中を引き渡すところを見た人物がいたのかも知れない。

 白扇は立ち上がり、もらった果実にかぶりつく。とろけるように軟らかな果肉に滴るばかりに染み出てくる甘い果汁。口の中に幸福が広がる。こういうあたりがまだ女だな、と自覚をしているが、美味しいものは美味しいのだ。

 それにしても美味しい果実だ。乾燥した地帯ではここまでの物は採れないだろう。土壌の肥沃なようだ。近くに川が流れているから、その影響も大きいのだろう。

 果実の幸福に浸りながらも、白扇は込み合う市場を歩き始めた。

 しばらく歩き、果実も種だけになったころ、聞き覚えのある声を耳にした。

「蒼刑、この邑の保有する田畑の面積は?」

 声がはっきり聞こえるぐらいの距離に近づくと、そんな内容を錬清と蒼刑が話していた。

「応唯錬清」

 名前を呼ぶと、彼は顔も上げずに、

「白扇か。相手してる暇はないぞ」

 そう言って手元の紙に何事かを書き込む。どうやら、蒼刑の呟くような声の内容を書き記しているらしい。

 しばらくその様子を眺めていたのだが、どうやらこの邑の情報を集めているらしい。壁の強度から収穫できる作物の数。そして、人々が日々どのように暮らしているか。

「そんな情報を集めてどうするつもりだ?」

 一通り終わったらしい彼に話しかけると、

「情報は金であり、力だ。何も知らんよりはいいだろう? それに、これは奏歌の個人的な頼みでもあるからな」
「奏歌殿のか。つまり、他の邑の実情を知りたい。そういうことか?」
「ああ」

 錬清は筆の先端を布で拭い、染料を落とす。

「白扇、この後時間あるか?」

 急な問いに少し驚いたが、昨晩のことを伝え終わった今となっては特にすることもない。盟主として答えが出そろうのを待つだけだ。

「ああ、時間はある。調べ物の続きか?」

 問うが、彼は首を振り、

「少し欲しいものがある。買い物に付き合って欲しい」
「ふむ……まあいいか。私も今日は暇になりそうだしな。付き合おう」

 向かった先は市場からは外れた位置にある武器屋だった。

「しかし、このようなところに何の用だ? 武器ならあるだろ」
「そうは言ってもな、持ってるもんがこれだけじゃ心細くもなる」

 そう言って叩いて見せたのは『悪食』。そういえば、この剣は人を斬れないのだったか。

「護身用か……で、いい物はありそうか?」

 問うが、白扇がざっと見回した限りどれも数打ち、つまり量産品ばかりで、錬清ほどの手練れが持つには不足が目立つように思う。

「店主、この店にあるのはこれだけか?」
「へ? あ、いや……別にこんだけってわけじゃねえが……」

 その眼は訪れた三人をねちっこく眺め、値踏みをしている様子。

「あんたらに見せるもんはなさそうだな」

 結局、そう言って鼻で笑った。白扇は思わずむっとして、

「おい、錬清。出るぞ」

 物色していた錬清の袖を引いて店を出た。

「おいおい、いきなりなんだよ」
「聞いただろ? 私たちの腕前を馬鹿にされたんだぞ」
「それが?」
「それが、って……」

 白扇は絶句した。錬清の今までの態度を考えると、腕前に自信は持っていることは優に窺える。しかし、それを馬鹿にされたにも関わらず彼は眉一つ動かさない。

「白扇様」
「なんだ、蒼刑?」
「見る目のない店主の店に業物が置いてある筈もありません。どうせ、高値で安物を売り付けられるのが
関の山でしょう」

 彼の呟くような言葉には同意するが、それと錬清の態度はまた別の話だ。

「まあ、あの店は当てが外れた。そういうことでいいだろ。次行くぞ、次」

 今度は錬清に袖を引かれて歩き出す。

「待て待て、引っ張るな。っておい、ちょっと、人の話聞け!」

 だが、彼の歩く速度があまりにも速く、引く力も強いために転びそうになる。何と言っても体勢が悪い。

「だから離せってば――って、今度は急に止まるなッ」

 ぶつかりそうになるのをたたらを踏みつつも何とか堪える。

「で、ここで止まった理由は?」

 見回すが、人っ子一人いないばかりか、店の看板もない。

「ここに用があったからだ」

 なら最初からここに来れば良かっただろうに、とは思うが、口には出さない。

「しかし、店なのか、ここは?」
「正確に言うと、店ではないな」

 そのためか、看板の類は出ていない。

「……なるほど」

 蒼刑の納得したような呟きに白扇は首を傾げたが、彼はそのまま黙してしまった。

「じゃ、入るか」

 横目で白扇たちの様子を眺めていた錬清だったが、そう言って木戸を叩く。

「誰ですか?」

 中から年若い男の声が聞こえる。

「応唯錬清という者だ。頼みたいことがあって参った」
「応唯さんですか。ちょっと待ってください。今開けます」

 木戸が引き開けられ、姿を現したのはがっしりした筋肉の付いた短髪の男。

「で、頼みたいこととは?」
「ここにある武器を譲って欲しい。無論、金は出す」
「それは……難しいと思いますよ。親方は頑固ですから」
「それを押して頼みたい」
「…………」

 しばし無言になる男。どうやら彼自身はここの責任者ではないらしい。しかも、親方ということは、ここは職人がいると見て間違いないだろう。

 彼はさらに悩み、それから、

「待っていてください。親方に掛け合ってはみます。でも期待はしないでくださいね」

 奥に引っ込んでいった。

「ここは工房なのか?」

 錬清に問うと、彼は浅く頷き、

「ああ。李州随一の腕を持つという男が取り仕切る武器工房だ。数打ちは造らず、自身の満足が行った物しか表に出さない頑固者らしいがな。しかも、市場には流れてこない」
「なるほどな。それでわざわざ出向いたという訳か」
「李に来た理由の一つはこれもあったからな」

 そう言葉を交わしていると、固いものが木床を打つ音が等間隔に連続して響く。やがて姿を現したのは、白髪白髭の老翁。右肩に槌を担い、鋭い眼光で白扇たちを見回す。先ほどの物音は槌を杖代わりにしていたものらしい。

「ふんっ、導き手たちか」

 老翁はそう吐き捨てるように言い、渋面を作る。

 錬清は珍しくも彼の言葉に驚きを見せ、

「わかるのか?」

 そう、素の表情で問う。

「見りゃわかるわい。儂とてだてに奴らと付き合いがある訳じゃない。それともなんだ? 儂が仙人と付き合いがあると知ってここに来た訳じゃないのか?」
「あー……正直言って俺の師匠は僻地で暮らす変わりもんなんで……」
「ま、そういうこともあるかの。とにかく入れ。家の前に群がられたんじゃ、邪魔で仕方がない」

 中に入るように促され、錬清を先頭に足を踏み入れる。

 そこは加工場のようで、大きな台とその上にいくつもの工具が置かれているのが目についた。

「しかし、導き手ともあろうもんが武器も持たずに出てきたのか?」
「いや、そうではないのだが。なにぶん、持たされたものが獣も斬れない特殊なもんなんで……」
「はっ。そういう事情か。わかったわかった。そこで待ってろ。お前にうってつけの物がある」

 槌を担いだまま、隣室へ続くであろう扉の向こうに消えた。

「導き手とは?」

 錬清に問うと、彼は肩を竦め、

「仙人のもとで修業し、その仙人の目指すもののために人を導く者のことだ」
「ふむ、初耳だ」
「当たり前だ。導き手という言葉は仙人に縁のある者しか使わぬしな」
「それもそうか」

 一般人でも、仙人の存在そのものは知っていても、実際に会ったりすることは極稀であるし、その実情ですらよく知られていない。ただわかるとすれば、人ならざる超常の力を振るい、永い時を生きていることぐらいか。

「…………」

 それにしても遅い。老翁が去ってから、すでにかなりの時が経過しているが、未だに戻って来る気配がない。それどころか、隣室からはなかば破壊音とも取れる物凄い音が終始聞こえてきている。大丈夫なのだろうか。

 だが、白扇の心配を他所に、それからまたしばらくの物音の後、老翁が扉を開いて戻って来た。槌は置いてきたのか持っていなかったが、その代りに細長い布の包みを抱えていた。

「これじゃ。開けてみぃ」

 無造作に押し付けられたそれを錬清は危うげなく受け取り、口を縛る黒い紐を解く。

 布を払った下から現れたのは、青い鞘の剣。

「月泉、という剣じゃ」

 錬清は慎重な手つきで鞘から抜き放つ。それは淡青色の刃を持つ美しい剣だった。だが、それよりも目を引いたのは、

「水……?」

 そう、その刃には水のように、絶えず表面が揺らめいて見えた。

「宝貝だろ、これ……」

 錬清も魅入られたように瞳が剣から離れない。

「気に入ったかの……お前の師匠が誰かは知らんが、そいつはなんなく使いこなせそうな気がしたからな」
「随分と買い被られている気がするが、ありがたく頂戴しよう。して、お代は?」

 問う錬清に、老翁はしばし顎に手を当てて悩んでから、

「そうじゃの……今でなくていいが、幻蝶の翅を取って来てくれんかの?」
「幻蝶の翅、か……また随分と吹っかけられた気もするな」
「ふんっ……出来ぬというならその剣は返してもらっていいぞ」
「取ってこないとは言ってない。近いうちに手に入れてやる」
「期日は指定せん。数年内であれば文句は言わぬ」
「それまでくたばるなよ」

 錬清は軽口を叩き、突き出された老翁の拳に自身のそれをぶつける。

「では、お代の件はゆめゆめ忘れるでないぞ。それと、その剣がいかに優れているとはいえ、所詮はものだ。壊れもする。過信はするなよ」
「ああ。忠告痛み入る」

 錬清は恭しく頭を下げ、老翁の工房を後にした。
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