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小説未満

    2012-04-20(Fri)

こんばんは。

ちょっと暇つぶしに書いてみた小説の一場面。
もしかしたら、このシーンカットになるかも!

更新するネタも思いつかないので投下していきます。
続きからどうぞ。





「わたしじゃ、胡桃崎先輩のお相手には不足なんでしょうか?」

 黒髪の少女、冬月紗夜は合唱部の先輩である白鷺刹那にそう問う。その声は透き通るようで、そして今は真剣な色を帯びている。

 頭の両横で結んだ髪が風に煽られ、ひらひらと揺れ動いている。

 問われた刹那はその日本人離れした蜂蜜色の髪に手を添えて校舎の屋上に吹く風で髪を乱されないようにしながら、

「どう、かな」

 ハスキーな声でそう言い、沈みかけの夕日に琥珀色の目を細めた。

「どちらかというと、非があるのは蓮の方だと思うけれど」
「胡桃崎先輩に?」

 紗夜は彼女の言葉に驚く。だってそうだ。胡桃崎先輩はいつだって完璧で、優しい人だ。

「あんまり人を美化しすぎるものでもないよ」

 刹那は手すりに肘を乗せ、顔だけを紗夜に向けた。

「私だって、みんなに勝手に美化されてるけどね、本質なんて全然違うんだから」
「でも、刹那さんだって素敵な人じゃないですか。それのどこが違うんですか?」
「素敵、ね……褒められて嬉しいのは確かだけど」

 彼女はフッと自嘲し、

「誰も内面なんて見てやしないよ。でも、蓮は違うかもね、そういうところ」
「当たり前です。胡桃崎先輩は人の内面を大切にする人ですから」
「ふふ……よくわかってるじゃない、彼のこと」
「でも、それだけじゃない気もするんです。あの人は優しいけど……でも、寂しそうに笑うことが多いです」

 そう、紗夜が恋慕する相手、胡桃崎蓮は悲しげに笑う人だった。でも、その理由は知らない。まだ、知り合って間もないこともあるが、それ以上に本心を滅多に見せない人だからだ。

 刹那は手すりに預けた腕に頬を乗せ、紗夜のことをじっと見つめる。

「な、なんですか。さっきからじっと見て」
「いえ……よく見てるな、と思ったから」
「……自然と目で追ってしまいますから」
「可愛いよ、紗夜は。女の私から見ても、ね」
「そ、そんなこと真顔で言わないで下さいよ! それに、刹那さんには負けます。わたしにはモデルなんてできないし……」

 突然そんなことを言われて紗夜は慌てふためいた。

 実を言うと、目の前にいる刹那という女性は紗夜にとって合唱部の先輩であると同時に、多くの人にとってモデルとして有名な人物だった。なんといっても、その均整の取れた日本人離れしたプロポーション。特に、胸の大きさは実に羨ましいほどだ。

「やろうと思えば、紗夜でもできると思うけどね、モデルの仕事は。でも、やらない方がいいかも知れない」

 刹那はモデルとして有名だが、今はもう活動していない。本人の言うところによれば、意見の違いによる衝突からモデルをやめたらしい。

「そりゃあ、わたしだって容姿にはそれなりに自信ありますけど……でも」
「大きく出たわね、紗夜。でも、なに?」
「先輩はもっとカッコいいですから……正直つりあってないんじゃないかと思ってしまって」
「過大評価も甚だしい気もするけど、私からすると。まあ、それは顔がいいのは認めるよ? でもさ、それこそ蓮の本質はそこじゃないでしょ?」
「まあ……でも、先輩に憧れる子は多いわけで……」
「つりあってないって言われるのが嫌?」
「ありていに言えば」

 確かに、先輩を美化しすぎだ、と思うこともしばしばあるが、でも、やっぱり素敵な人なのだ、彼は。

「あのさ、紗夜」
「なんですか?」

 急に刹那が真剣な顔になっている。首を傾げて問い返すと、彼女は少し悩んでから、

「私の本当の姿、見てみる?」
「え……?」

 なにを言いだすのかと思えば、いきなり本当の姿だなんて。まさか、実は宇宙人でした、とかそういうノリではないだろうけど。

「まあ、見せていただけるのでしたら、ぜひ」
「……そう」

 刹那はなおも少し悩んでから、手すりから急に身を起こす。

「ボクは――」

 声の質が少し変わる。軟らかな女性のものから、少し硬い少年のような声音にだ。そう、一人称も変わっている。

「うん、本当はボクって自分こと言うんだ。驚いた?」
「え、ええ……でもどうして?」
「うーん、なんでかな。多分、子供のころから蓮とやんちゃしてたからじゃないかな。なんか、ボクって言うのが当たり前になっちゃって」
「えと、そっちじゃなくてですね。なんで普段からそうしてなかったのかって意味で……」
「あ、そっち?」

 そっちかぁ、と彼女は呟き、少し苦い顔で、

「事務所の方針だよ。ボクってモデルやってたわけじゃない? つまり、それは女としての自分を売り出すわけだよね」
「まあ、そうですね。すると、男の口調ってのはやめた方がいい、と?」
「うん、そういうこと。普段から女らしさを身につけろって。でもまあ、ボクもそのことに異論はなかったよ」
「いろいろと初耳です。刹那さんもあんまりそういうこと話してくれませんから」
「うーん……自分のことをそこまで話さないのって、結構普通なんじゃないかな。そりゃまあ、心を開いてくれない、ってのは嫌だけど、事情のすべてを知りたいわけでもないし……」
「そうかもしれませんね。多分、わたしが先輩のことをもっと知りたいと思うから、そう思うんでしょうね」

 それは自覚している。興味のない他人の身の上話など聞かされても面白くもなんともないだろうが、相手は恋焦がれている相手だ。気にならないわけがない。

「どうしようかなぁ」

 身を回し、手すりに背中を預けて腕を組む。

「なにがですか?」

 唐突に悩み始めた刹那に疑問を覚え、そう問うと、彼女はしばらくしてから首を一つ縦に振り、

「ねえ、蓮がどうして寂しい顔をするか、その理由知りたい?」
「ッ!?」

 まさしくそれは聞きたい話の核心だ。だが、刹那の表情には容易に踏み込ませないような気迫がある。

 紗夜はしばらく刹那と見つめ合い、自分の中の覚悟を決める。

 ゆっくりと頷いた紗夜の表情を見て、刹那はフッと表情を和らげた。

「じゃあ、話してあげるよ。蓮の過去に何があったのか」

 そうして、刹那はポツリポツリと語り始めた。

 かつて、蓮には年下の彼女がいたこと。

 その彼女の名前が、神崎“紗夜”だったこと。

 そして、その二人は周囲がうらやむほど仲睦まじかったこと。

 交際期間は三年にも及んでいたこと。

 しかし、

「どうして……」

 苦い顔で刹那が吐き出した言葉に呆然とする紗夜。だって、彼女はこう言ったのだ。


『彼女は通り魔に殺された』

 紗夜はそのあんまりな結末に怒っていいのか、悲しんでいいのかわからなかった。

 仲睦まじかった二人を引き裂いた凶刃。

「犯人は?」
「捕まったよ。正確に言うと、捕まえた、かな」
「それはどういう――」

 言いかけて、しかし、理解できてしまった。蓮が、先輩が捕まえたのだと。恋人を奪った仇を死に物狂いで探し求める彼の姿が目に浮かんでしまった。

「うん、蓮が探しだし、そして、怒りのままに殴りつけた。何度も何度も。犯人が止めてくれと叫んでも、彼は拳を振り下ろし続けた。ボクにはそれを止められなかった」

 その時のことを思い出してか、刹那が身震いした。

「止めたのは蓮のお父さんと警察で、羽交い絞めにされながらも、なお殴ろうとして……怖かったよ、彼の顔は。蓮にもあんな表情が出来たのかと、そう思ってしまうぐらいに」
「…………」

 紗夜は言葉が出なかった。恋慕する相手が怒りのままに相手を殴り殺す直前まで拳を振り下ろし続けたことへの恐怖にではない。

 あまりにも酷な結末を迎えてしまった彼らへの悲しみが喉を詰まらせた。

「実を言うと、その通り魔はそれまでに三人もの少女を手にかけていたんだ。そして、四人目にして最後の被害者が神崎紗夜という少女だった」
「……どうしてその犯人は女の子ばかりを?」

 もしかしたら、大した理由などないのかも知れなかったが、知りたかった。なぜ、罪のない少女を四人も殺したのか、その理由を。

「取り調べの際に、そいつはこう言ったそうだ。『幸せそうだったから殺した』、とね。犯人は少女に対して強い怒りを抱えていたらしいよ。子供のころになにかあったらしいけど……」
「でも、理不尽じゃないですか!」

 叫んで、でも、そんなことを刹那に対してしても仕方がなかった。

 彼女もまたその紗夜という少女を友人として好いていたのだ。当然、傷跡は彼女の心にもあるだろう。

 かつての紗夜という少女は蓮と愛し合っていたが故に殺された。理不尽だ。

「でもね……」

 刹那はそう言って、唇をかんで感情を堪えた。深呼吸をして、気持ちを落ち着けてから彼女は言葉を続けた。

「紗夜が死んだ責任の一端はボクにもあるんだ」
「え? でも、殺したのは通り魔ですよね?」
「そうだけど。でも、ボクがあの時わがままを言わなければ恐らく紗夜は死ななかったはずなんだ……」
「それは……」

 ただの偶然じゃないか、とそう言いかけた。でも、それは刹那にとってただの慰めにもならないだろうことに気づいて紗夜は口をつぐんだ。

「ボクはあの日、モデルの仕事が早く終わってね……蓮に迎えを頼んだんだ。紗夜とデートしてるのはわかりきっていたのに。紗夜は優しい子だから、気を利かせて一人で帰ると言い――帰り道で殺された」

 ほんの少しの選択。それが彼女の生死を分けてしまった。

「蓮は言ってくれたよ、ボクのせいじゃないって。でも、どう考えてもあの時ボクがそう言いださなければ、紗夜は死なずに済んだって、そう確信できてしまう。だから――」

 悔しいんだ、と刹那は震える声で言った。

 憧れの先輩の、重い過去を知って紗夜は、少しもその恋心が揺らがないことに気づいた。

「刹那さん」
「……なに?」

 俯いたまま彼女は問い返す。紗夜は彼女の正面に立ち、隠れてしまった顔を思いながら、

「わたし、もっと胡桃崎先輩のことが好きになってしまいました。わたしは、あの人の心を癒してあげたい。かつての紗夜さんの代わりじゃなくて、今のわたしのありのままをぶつけて、胡桃崎先輩の、いえ、蓮先輩に認めてもらいたい。そう、思います」

 ありのままの気持ちを言葉にすると、刹那の肩が震えた。

「ふふ……君は強いよ。道理で、蓮が押されるわけだ」

 泣いているわけではなかったようで安心したが、彼女の言葉の意味を図りかねた。

「先輩が、押される?」
「うん」

 目尻が赤くなった顔を上げ、刹那は薄く微笑む。

「蓮はね、そろそろ前に進み始めてる。ちょっとずつ。君と出会ってから、ね」
「わたしと……?」
「そうだよ。君が蓮を変えた。前に進む勇気を与えてくれた。きっと、彼の中では君の存在はかなり大きなものになっているはずだよ」
「買い被りじゃなければ嬉しいですけど……」

 しかし、同じ名前であるというのは、かつての少女を思い出させてしまうマイナス要因だろう。

 でも、だからこそ代わりは嫌だと、紗夜はそう思う。

 自分を自分として認めてもらおう。そう、紗夜は心に決めた。
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コメント

No title

 こんばんは。
何か 女性の可愛らしさと 恐さとが出ている小説でした。
モデルに 通り魔殺人 手じかな 日常的な設定では無いのに
妙な リアリティーがあり 妙な女性の凄みを感じました。

Re: No title

こんばんは。

> 何か 女性の可愛らしさと 恐さとが出ている小説でした。
怖さを感じましたか……まあ、通り魔とか、女性の強かさは少し混じってますからね。

> モデルに 通り魔殺人 手じかな 日常的な設定では無いのに
> 妙な リアリティーがあり 妙な女性の凄みを感じました。
個人的に刹那さんはお気に入りキャラです。
メインヒロインを張れるキャラだけど、あえてサブの座に。
リアリティーを感じていただけたなら、それ以上の喜びはありませんね。

いつかこの話をフルで書くことがあると思うので、その時は純愛物語として読んでやってください。

コメントありがとうございました。
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