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グランベル魔法街へようこそpart11

    2012-03-27(Tue)

こんばんは。

長編連載小説『グランベル魔法~』の更新です。






「いいなぁ……」

 ユウはカエデの手に握られた一振りの刀を見てそう呟く。

 カエデがそれを受け取ったのはつい先ほどのこと。

「なら、ユウちゃんもなにか依頼をなさってはいかがですか?」

「そうは言っても……別に武器が欲しいわけじゃないし……でも、あたしにもなにか作ってほしいな」

 カエデの提案にも少し心惹かれたが、よく考えるとこれといって欲しいものが考え付かない。

「服、とかどうです? 魔法使いによっては、魔法陣を織り込んだ服を着用している人もいますし」

「服かぁ……」

 その発想はなかった。そういえば、カロンのマントも魔法陣の織り込まれた特殊なものだった。頼めば、似たようなものを作ってくれる可能性はある。ただし、恐らくは依頼の品として料金を取られるだろう。

「それはいつかお金を自分で稼いでからにしよ」

「そうですね。一応、あの人の仕事は慈善事業ではありませんから、お金の――」

 カエデの言葉がふいに途切れ、その手が刀にかかる。

「何者です? いえ、なぜ精霊がこんなところに?」

 問う声は氷の冷たさを孕み、直接向けられているわけではないが、背筋が冷たくなった。

 こんな声を出すカエデは初めて見た。

 ユウとカエデの視線の先、草の茂みがかさりと動くと、その中から一人の少女が出てきた。ただし、彼女を人間と評するには一つの異物を取り除かなければならないが。

「は、ね……?」

 羽。いや、それに近いが、いささか違う。有機的な輝きを放つ金属のようなものが形作る放射状の造形に鮮やかな朱の光が絡みつき、その様子が羽のように見えるだけだ。

「…………」

 彼女は無言でユウとカエデを見、そして、視線はカエデの手元に固定される。

「もう一度問います。どうしてここに精霊が?」

 重ねて問うた先、少女はつまらなさそうにため息をつき、

「なんじゃ、わしがここにいてはいけない存在のようではないか。ん? それともそういう場所か、ここは?」

 少女の、しかし、見た目の年齢とはかけ離れた物言いにユウの思考は一瞬硬直し、しかし、相手がもともと慮外の存在であることを思い出して気を取り直した。

「ここはグランベルが誇る魔封学園。その外周部には精霊を阻む障壁が幾重にも張り巡らされていたはずです。だからこそ問うのです。どうしてここに、と」

「ああ、そういうことか。得心した。ふむ……何と言ったものか。わしにとってみれば、あの程度の妨害、妨げられたとも思わん程度だよ。まあ、煩わしくはあったがな」

 ククッと喉の奥で笑う。

 ユウは改めて少女の姿をした精霊を観察する。

 艶やかな濡れたような長い黒髪は常に風に煽られているようにさらさらと揺れている。そして、小さく整った顔。瞳の色は背後に揺らめく『羽』を同じ朱。唇は薄紅を引いたようで、しかし、少女が浮かべるには不釣り合いな笑みがそこにある。

「精霊を見た目通りの年齢と思うなよ、小娘」

 ユウの思いを見透かしたように嗤う精霊。だが、その笑みもふいに消え、視線は再びカエデの手元に注がれる。

「懐かしい音がする。その魔剣は誰ぞの作か?」

「答える前に一つ」

「なんじゃ?」

 黒髪を揺らし、精霊が首を傾げる。その様子に注視しながら、

「あなたは何者ですか? 障壁をいとも簡単に破れるほどの精霊ならば、さぞ名もおありでしょう?」

 少し挑発するような物言いだ。しかし、精霊は動じもせず、

「ああ、名乗らないと人間はわからないんだったな。そう、わしはアリシエル。汝ら人間のような姓は持ち合わせておらぬが、あえて言うなら『アフィニターテ』。汝らの言葉に直せば、『親和』という意味じゃな」

 カエデの目が見開かれた。

「親和の精霊、ですかっ? しかし、なぜわたしたちにそのような力を教えるような真似を?」

「汝が挑発するから乗ってやっただけじゃ。それに、『アフィニターテ』の名を知ったところで、その本質が理解できるわけでもなかろう?」

 ユウはカエデの驚きもアリシエルと名乗った精霊の返答の意味も全くわからない。

 精霊に関する何かしらの制約かなにかの話だったと思うのだが、うまく頭が働いてくれない。

「で、今度は汝が答える番じゃぞ。その魔剣の制作者は誰じゃ? 見たところ、まだ作られたばかりじゃ。しかし、わしはその音とよく似た音を奏でる男を知っている」

 その朱の瞳が懐かしそうに細められる。

「この刀の作者は……」

 言い淀み、しかし、意を決したように、

「カロン・F・イルナリスという魔法使いが作成したものです」

「ああ、やはりあやつか。道理で、いい音がする」

 耳をそばだて、音に聞き入っているような精霊。しばらくそうしていたかと思うと、その視線が動き、ユウの胸元に注がれる。

「汝の持つは四聖龍の涙か。しかも、随分と気に入られおる」

「もしかして、精霊石のこと?」

「そうじゃ。精霊石はわしら精霊の命の欠片。思想の乖離ゆえに相容れぬ者も多いが、汝は大きな器を持っているようじゃな」

「褒められてるんだよね?」

 言葉の内容が微妙に理解できないせいで、その判断に迷う。

「自分で判断せい」

 しかし、アリシエルはにべもなかった。

「では、胸の大きい小娘」

「楓です。蘆野・楓」

 精霊からの呼ばれ方にむっとしたのか、語気も強く名乗る。アリシエルは呵呵と笑うと、

「そうじゃな、汝らにも名前がある。それを呼ばぬのは失礼というものか。では、改めてアシノの。わしをカロンのもとに案内せい」

「あ、それだったらあたしの方が」

「ふむ。汝の方が親しいのか、あやつと?」

「一応、一緒に住んでるから」

「なんと!」

 アリシエルは大仰に驚き、そして、その顔を笑みに崩す。

「なるほどの。音の柔らかさは汝が原因か」

「音の柔らかさ?」

 この精霊、頻繁に『音』と口にするが、それは自分たちが聞いてる音とは違う概念のような気がする。

「今ここで説明してやってもいいが、それよりもまずは案内をしてもらいたい。どうせ、汝も同じ屋根の下に住まっているなら、後でも問題なかろう?」

「まあ、いいけど。でも、カロンに変なことしに来たんじゃないよね?」

「言ったろう。あやつとは知り合いだ。此度はあやつに少々頼みたい議があって、わざわざこのような場所まで足を運んだのだ」

「そう……じゃあ、こっち」

 いまいち釈然としなかったが、彼女に敵意はないようだし、カエデも名前を聞いて以来構えを解いている。ということは、警戒しなくても大丈夫なのだろう。

 指で方向を示し、精霊の『少女』を伴って工房兼自宅へと足を向けた。
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コメント

No title

おお、精霊が人と喋るのですね。
面白い設定ですね。
グッゲンハイムではその精霊自身が製造した物質(武器など)を媒介しないと喋れない設定になってますからね。物質が実数なら、精霊は虚数・・・という設定にしております。
面白い話ありがとうございます。

LandM(才条 蓮)さんへ

こんばんは。

ええ、この世界の精霊には言葉を解す者がいます。
しかし、一口に精霊といってもピンからキリまでいるので、言葉を理解しないものも多くいますが。
この精霊の設定に関してだけは『神曲奏界ポリフォニカ』に近いところがあるかもしれません。神曲を演奏する必要はありませんが(笑)

グッゲンハイムでの設定も面白いですね。
根底が虚であるがために、実を媒介にする必要があるのですか。

こちらこそ面白い話をありがとうございます。

感想ありがとうございました。
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